第14話 天下無敵2

 人間の目からすると、目にも見えねえ速さだったのかもしれねぇ。瞬きの一瞬の内に、五郎が匕首を抜き放ち風介の首元を抉り、風介がその刃をへし折り平手打ちをかます。


 五郎の体が5mはぶっ飛んだだろうか、鼻と口から真紅の血をまき散らして五郎が道端に倒れ込んでいた。


 「親分、兄貴。それまでっ!」


 慌てて止めに入った熊が、意識を飛ばした五郎に駆け寄り抱き起こした。


 「兄貴、でぇじょうぶか?」


 心配そうに五郎の体をゆすると、五郎もなんとか意識を取り戻した。


 「お、おぅ。でぇじょうぶだ。すまねぇな」


 「いくら兄貴でも魔人の親分が相手じゃ、勝てるはずねぇのはわかってただ」


 「いや参った。俺も物心ついたガキの頃から、ゴロまいておくれを取ったことなどただの一度もねぇが・・・・・魔人の親分さんには、まったく相手にならねぇようだ」


 顔半分が血に塗れた五郎が、熊の手を振りほどき道端に座り込んだ。


 「魔人の親分さん、申し訳ねぇ、馬鹿の失礼を勘弁してくだせぇ」


 なんだよ。土下座して許しを乞う必要なんかねぇのに。律儀な漢だぜ、こいつぁ。


 「気にするねぇ、十分に手加減したつもりだったが、悪いな血を流させちまったな」


 「親分、河内の五郎、魔人のあなた様に惚れちまいました。こんなバカな俺だけど、もし許してくださるなら、あなた様の子分にしていただけねぇでしょうか?」


 「親分、この五郎の兄貴も俺と同様、なんとか子分にしてやってくだせぇ。お願ぇだ」


 こいつは熊より更に使えそうだ。身が軽いし腕も立つ、それにこいつを使えば金には困らねえかもしれねぇな・・・・・


 「ちっ、しょうがねぇな。五郎、こんな俺で良かったらついて来な」


 「おう、ありがてぇ! 親分。つまらねぇ漢ですがよろしく頼んますっ」


 「五郎の兄貴、良かったな。これで兄貴も俺も、風介親分の身内同士だぜ」


 嬉しそうに熊が五郎の手を握りしめる。

何が嬉しいのか俺には分からねぇけどな。


 時の扉を開いて、この世界に飛び込んでからまだ2日足らず。熊に五郎、そしてイヌコロと気合が入った子分ができちまった。まあ、根性決めてやるっきゃねぇな・・・・・


 古い長屋、時代がかった町並み。明けきらない暗い夜空から、やたらでかい月がスポットライトみてぇに俺を蒼く照らしている。


 何処の世界だか、いつの時代だか、まったくわからねぇが、ふっ、天下無敵、魔人の風介さまかぁ!まんざら悪い気分じゃあねぇな。


 まるで浮世絵みてぇなこの世界。月に向かって大見得を切りてぇくらいだぜぃ・・・・・

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