第13話 天下無敵1

 「さ、さすがは五郎の兄貴。こんな沢山のお宝はあまりお目にかかったことがねぇ」


 山賊の熊からすれば大した金額だろう。出されたお茶に手を出すことも忘れ、呆然と見ているのもやむを得ないところだろう。


 「熊よ、欲しいだけ持っていってかまわねぇぜ。また大金持ちのお屋敷に、ちょぃとお邪魔すりゃいいだけのことだ」


 「兄貴、本当にすまねぇ。お言葉に甘えて、いくらかお借りしていくぜ」


 「良いってことよ。そちらの親分さんも、お宝はあって困るもんじゃねぇ。よろしかったらいくらでもお持ちくだせぇ」


 「いや俺は要らねぇよ。気持ちだけいただいとくぜ。金にゃあんまり興味がねぇんだ」


 「ほぉーっ、お宝に興味がねぇとは、こいつは珍しいお方ですなぁ」


 「兄貴、親分は並の人間じゃねぇ。魔人さまだから、お宝なんざ必要ねえみてぇだな」


 「熊よ、この魔人の親分さん、武士でもなさそうだし、本当にそんなにお強いのかい?俺と比べてもかい?」


 五郎の顔は笑っているが、切れ長の目だけは獣のようにギラリと光る。


 「いつも面倒みてくれる兄貴にゃ申し訳ねぇが、俺の惚れた風介親分は魔人さまだ。兄貴といえども敵いやしねぇぜ」


 「ほう、面白ぇな! 親分さんはそんなにお強いのかい? 親分さん、どうだろう、この俺とちょぃと遊んてくれませんかね?」


 狭い四畳半に青白い殺気が走り、火花が飛び散るようだ。熊も止めるつもりは、はなからねぇようだ。笑って二人を眺めている。


 「ふふふ、俺で良ければ相手になるぜ」


 「そうですかぃ! じゃあ親分さん、外に面貸していただきましょうか」


 粋な漆黒の着流しの前を捌いて、五郎が勢いよく引戸を開けて外に出る。


 風介も後に続き、さらに熊も後に続いた。


 月明かりが照らす道の向こうに、腰をやや屈め、右手を懐に忍ばした五郎が、既に隙無く身構えている。


 五郎の身体からは、青白い殺気が立ち上る。おい、ちょいと遊びのはずじゃねぇのかい。


 「五郎さん、いつでもいいぜ」


 「親分さん、俺は手加減できねぇから、間違ったら勘弁してくださいよ。いくぜ!」


 五郎が疾風の如く動く。10mほどあった2人の距離を一気に詰める。懐から月明かりに輝く光り物が筋を引いて風介の首元を襲う。


 神速な五郎の動きも、まるでスローモーションだぜ。首元に近づく匕首を右掌で掴み鋭い刃を真ん中からへし折る。同時に左掌で五郎の鼻から右頬にかけて、撫でるように軽く叩いた。

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