第12話 大泥棒2

 15分程走っただろうか?河内の五郎の走る速さは、人間とは思えない。時速40kmを超える自動車並み、まるで風そのものである。


 しかも驚いたことに巨大な岩壁のような体の熊も負けずに速い。イヌコロは狼だから速いのは当たり前のことだが・・・・・


 先程の町から離れ、別の町中にある古びた長屋の前に立ち止まった。


 「狭くて悪いが、へえってくれ」


 引戸を開けて中に入る。間口が9尺(2.7m)で奥行きが2間(3.6m)の6畳程度の広さに土間があるため、実質4.5畳ほどの広さである。


 五郎を先頭に、風介、熊、イヌコロの順で引き戸の中に消えた。狭く古い畳敷きの四畳半、薄い煎餅ふとんを隅に押しやり、3人が座り込み、イヌコロは土間に腰を下ろした。


 「狭くてすまねえな、いま茶を入れるから」


 五郎が立ち上がり土間の竈に火を入れ、湯を沸かし始めた。


 「兄貴、こいつは今夜の戦利品かい?」


 畳の上に放り出された布切れに包まれた物を眺めながら熊が声をかける。五郎と出会ったあの場所から五郎が担いでいた荷物のようだ。


 「おう、そいつが今夜のお土産だ。大金持ちのお代官さんが恵んでくださったお宝だ」


 「随分と高価そうな臭いがするお宝だな」


 「ふっふっふ、熊、そのお宝をちぃっと持ち上げてみな」


 五郎に言われて熊が布包みを持ち上げた。


 「おーっ、兄貴、こりゃあえらく重いな。小判でもずっしりへぇてるのかい?」


 「開けてみてみねぇ、かまわねぇからよ」


 熊が布包みを開けると竹で編んだ籠箱が1つ。箱の蓋を開けてみると、貨幣がぎっしりと現れた。


 「こりゃあすげぇや!」


 竈で湧かした湯で入れたお茶をお盆に載せて五郎が畳に戻ってきた。


 得意そうに笑いながら、熊と俺の顔を見下ろした。


 「どうでぃ、大したお宝だろう」


 この時代の貨幣価値など俺はよくは覚えちゃいねぇが、両、分、朱、糸目なんて単位だったような気がする。しかも4進法だったはずだ。


 1両が4分、1分が4朱、1朱が4糸目、だから1両は16朱であり、1両は64糸目であったはずだ。江戸時代小判が18g位だとすると、千両で18kg辺りか。小判に他の金子も合わせりゃどう見ても700から800両近くはありそうだ。


 この20kg弱の荷物を背負ったまま、あの速さで走り抜けるなんざ、この男、並み大抵の野郎じゃねぇな・・・・・


 多分、庶民が4人家族で1月暮らすのに1両程度かかるって何かで読んた気がする。どちらにしても大したお宝だ。

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