第11話 大泥棒1

 代官っていうと江戸幕府じゃ天領を預かるお役人さま、日本国内に50弱あったはず。


 俺は歴史はからっきしだったから、あてにならねえが、たぶん代官と同じ役割の群代が江戸を入れて4箇所。


 群代と代官は同じ旗本で仕事も地方と公地方で同じ、石高が群代の方が高かったはず。


 たしか甲斐の国には代官所が3箇所。まあこの世界じゃわからねえけどな。


 代官のでかい屋敷が月明かりに聳え立つ。道なりに続くご立派な塀姿を見るとはなしに眺めていると、10mほど先の塀の上部に人影がひとつ月明かりに浮かんだ。


 おい何でえ、あの人影は・・・・・

 もちろん、熊もイヌコロも俺と同じに気づいたようだ。


 「何でえ、ありゃあ!」


 人影は重そうな物を担いで、塀の上から道にヒラリと降り立った。熊もイヌコロも風を巻いて走り出す。人影の間近に立ちはだかった。


 「誰でぇ?」


 まるで歌舞伎役者のような渋い声が響く。

 俺ももちろん一瞬で人影の間近に・・・・・


 黒装束の人影が突然の状況に身構える。月明かりに浮かぶ人影の顔つき。男前だぜ。


 「おう、河内の兄貴じゃねぇか!」


 どうやら熊の知り合いらしいな。


 「おう、石和の熊か!久しぶりだなあ」


 熊とイヌコロには気を許したものの、見たこともねえ俺には鋭い目線を走らす。


 「熊、初めてのお顔だが、そちらさんは?」


 「おう、五郎の兄貴、こちらは俺の親分、風介親分だ」


 「初めて聞く話だな。熊よ、おめえは確か親分無し子分無しの一匹狼だったはず?」


 「おうよ、俺もそのつもりでいたが、ガチゴロでやられちまって、拝み倒して子分にしてもらっただ」


 「石和の熊っていえば、今までゴロマキで後れを取るなんて聞いたことがねぇな。熊、本当におめえ、この旦那にやられたのかい?」


 「やられたも何も、この俺が一発でぶっとんじまっただ。この親分の強さは、まるで魔人さまだ」


 「ほう、そりゃあじっくり聞かせてもらいてぇ話だが、どうやら屋敷の中が騒がしくなってきたようだ。どうでぃ、よかったら俺のヤサまで付き合わねぇか?」


 「兄貴のヤサなら行ってみてぇな。騒ぎに巻き込まれるのも面倒だ。親分、どうします?」


 「そうだな、お邪魔するか・・・・・」


 「よし、じゃあひとっ走りするから、遅れねぇように着いて来な」


 深夜の闇に紛れて影が走る。山を越え森を越えて。河内の五郎を先頭に、石和の熊、風介、そして殿を黒い獣が、つむじ風のように走る。

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