第10話 甲非の国2

 季節は、たぶんあっちと同じ初春、4月ころかな。ハーフパンツにTシャツで、さほど寒くはねえからな。そんなところだろ。


 ど田舎のひなびた町中を3人で、いや2人と1匹でそぞろ歩きだ。月明かりに薄ぼんやりと舗装もされていねえ道を歩いていく。


 さあ、何をするかな?特にあてがあるわけじゃねえし。


 道なりにあてもなくブラブラ歩いていると、景色が少しずつ変わる。


 貧しそうな町人の家並みから、少し小綺麗な家並みに、そしてかなり立派な門塀付きの御屋敷に変わっていく。


 ふふん、やっぱりか。こっちの世界でも金持ちはいい暮らししてやがるな。


 いくつかのバカでかい屋敷の横を通り抜け、ひときわでかい屋敷の前に近づいた。


 ほとんどの屋敷の門はしっかりと閉じられていたが、このでか屋敷の門は開いている。しかも恐そうな2人の門番さままで立っていやがるぜ。


 おい、おい、睨んでるぜ。なんか2人でゴソゴソ話ながら。と思った瞬間にイヌコロが跳んだ。


 まさしく空中を跳んだ。あっという間に門番2人を噛み倒す。まさしく野獣そのもの。止める間もない一瞬の出来事。


 「おい、おい、イヌコロちゃんよ。噛み殺しちゃったのかい?」


 「いや親分、でぇじょうぶ。ちょっとばかり大人しくさせただけでさぁ。俺の命令がなけりゃ、命を奪うことはしねえから」


 「熊、それでよ、このご立派な御屋敷は、どちらさんの御屋敷だい?」


 「ここは、この地域の代官の屋敷でさ」


 「代官屋敷か。さすがに、でけえはずだな。ところでよ熊、ここは何て国なんでい?」


 「親分はやっぱり人間じゃねえな。自分がいる場所もわからねえんだから。やっぱり魔人さまなんだな」


 「熊、からかっちゃあいけねえよ。俺はちょっと遠くから来たんだ。だから地の理がきかねえんだよ」


 「まあなんでもかまわねえ。親分は親分だ

ここは甲非(かひ)の国って処でさあ」


 「甲非(かひ)の国? 甲斐(かい)の国じゃねえのか?」


 「甲非、甲州(こうしゅう)とも呼ばれてまさあ」


 どうも俺が学校で教わった山梨県、甲斐の国じゃなくて、かひの国だとよ。


 まあガッコの先生のすべてが必ずしも正しい訳じゃねえだろうし、歴史なんてあてにならねえからな。


 違う時空間に跳び込んで来たんだ。歴史も違う場所に来てもおかしかねえな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る