第23話 猛陀の夢1

 何とも不思議な気分だった。この世界では、風介がかって学んだ日本史の史実が微妙に変化して存在している。


 間違いなくこの国は日本であるし、この地域は山梨県だと思われる。しかし、甲斐の国ではなく甲非の国など微妙に異なるのだ。


 この国の大名は、武田信虎でなく、武田伸虎である。武田家がある躑躅ヶ崎も、この世界ではひつじが崎と、まあさほどの違いはないが。


 しかし、驚いたことに、あの歴史上の名将、武田信玄が存在しねぇんだ。風軍団を率いて、この一月あまり甲非の国のあちこちを暴れまくったが、やはり信玄の存在は確認できなかった。


 まあ歴史なんざ、特には当てにしていたわけじゃねぇけどな・・・・・


 茂治(しげじ)、圭吉(かどきち)、寛太(かんた)の3人の弟を集めて、どのように大日本(やまと)の国を統一するか方向性を考えた。


 天下統一を目指すなら流石に盗人じゃあ格好がつかねぇ。まず武士としての形を整える必要がある。


 我ら4兄弟は、猛陀(たけだ)家を名乗ることにしたんだ。猛は猛々しく、陀は険しい、全国統一の道の厳しさをあえて姓として冠した。


 茂治(しげじ)と圭吉(かどきち)は、『風介を信じて死ぬまで従いていく』という誓いを立て、名に『信』の字を加えたいと強く願った。


 茂治は『猛陀信茂(たけだのぶしげ)』、圭吉は『猛陀信圭(たけだのぶかど)』。俺はこの世界に存在しない信玄を引っ掛けて『猛陀信幻(たけだしんげん)』とした。


 俺と同じ別世界から飛び込んできた寛太(かんた)は、俺の名のせめて1文字を欲しいとのことで介を与え『猛陀寛介(たけだかんすけ)』と名乗ることとした。


 1月の間にかき集めた兵隊の精鋭たちも400人を超え、最強の風軍団を作り上げた。

兵は俺たち4兄弟の部隊に、それぞれ100人ずつ配置した。


 俺、風介の部隊は『風の軍』、信茂(のぶしげ)の部隊は『火の軍』、信圭(のぶかど)の部隊は『山の軍』、寛介(かんすけ)の部隊は『林の軍』として構成。軍旗はもちろん『風林火山』である。


 俺が知ってる歴史の中じゃ『風林火山』も、武田信玄は『山は動かず』の山部隊だったみてぇだが、俺は風介だからもちろん風の旗の下と決めたのは当然のことだ。


 猛陀軍はまず甲非の国を統一する。その後のこたぁまだ分からねぇ。まずはこの甲非の武田伸虎を叩いてからのことだ。


 伸虎の軍勢は約3万6千人。こっちは4百人。一人で90人ぶっ倒さなくちゃならねぇな。

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