第22話 風魔軍2

 ほぼ時速40km、さらに50,60、70kmと黒介がスピードを上げても、寛太は難なくついて来る。


 ほぅ、この兄ちゃん、掘り出し物かもしれねぇな。さらに強力な仲間を見つけて何か嬉しくなってきたぜ。


 あっという間に闇の中に浮かび上がった圭吉の家である荒屋にたどり着いた。


 既に茂治も圭吉も仲間を連れて戻っていた。大勢の人影が俺と黒介と寛太を取り巻いた。


 「おう兄貴、お疲れさまです」


 「風兄、お疲れさまです」


 他の人影は膝をついて頭を垂れる。


 「おう、茂治に圭吉、それに皆、待たせてすまねぇな。俺が風介だ。それにこの黒い狼が黒介、そしてこいつが寛太だ。よろしくな」


 茂治と圭吉が連れてきた盗賊や山賊たちの総数は40人。茂治が22人と圭吉が18人だ。


 茂治と圭吉、そして寛太は初めての出会いではあったが、俺が寛太を兄弟分として紹介すると、すぐに信頼し打ち解けた。


 1週間、共に生活し戦闘訓練し、互いの力量を確かめ信頼を固めることに専念した。


 俺たち3兄弟は、新たに末弟に寛太を加え、4兄弟として契を交わした。


 新たに仲間となった40人の全ての者が、神奈川と静岡との県境の足空(あしから)界隈で生まれ育った風魔一族の者であり、その身体能力は、人間離れした者ばかりである。


 40人を10人ずつ4隊に分け、風介隊、茂治隊、圭吉隊、寛太隊を作り上げた。


 1番隊は圭吉隊、2番隊は寛太隊、3番隊は茂治隊、そして本隊の風介隊とした。


 1週間の後、風軍団は資金調達、兵力増強のため、4隊各々別行動で甲非の国のあちこちに出没。代官屋敷はもちろん、武田家家臣、力のある土豪や地侍などを襲う。


 軍団の全ての者が、黒覆面、黒装束を身にまとい、武器を持たず素手のみで殴り倒して誰一人として殺めることなく、大金を風の如く掠めていく。


 甲非の国の全ての地域で、毎夜頻発する統率の取れた盗賊団の噂は持ちきりとなった。貧乏な一般市民たちは、金持ちばかり襲う彼らを『風の魔人たち』とむしろ褒め称えた。

 

 被害を受けた武士や侍たちは、その風のような速さ、魔人のような強さに『風魔軍』と呼び畏れた。


 風介がこの世界に飛び込んで、ほぼ1月の時が流れていた。深い森の中に佇む圭吉の破屋の周りの草原に無数の人影が月明かりを浴びている。


 「みんなご苦労だな。いよいよ明日から我ら風軍団の戦を始める。我らの戦いに敗けはない、常に勝利あるのみだ。本日をもって風軍団は『猛陀軍(たけだぐん)』に改める」


 「御心のままに」


 蒼い月明かりの下で、鍛え抜かれた数百の影が心と声を合わせた・・・・・

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