第8話 熊と狼2

 まるで飼い犬のように喉を鳴らす。確かにデカイし顔も狼そのもの。体長は2mをゆうに超えている。犬より足が長く眼が妖しく金色に光っている。


 「おう狼ちゃん、無事だったか。悪かったな、勘弁しろよ」


 じっと俺をのぞきこんでいる。突然現れた怪物の正体を見極めようとしているようだ。


 「どうした? こっちに来いよ」


 俺が手招きすると、しばらく迷っていたが恐る恐る近づいてきた。頭を下げて腰を屈めるような様子で足元に近寄ってきた。


 頭を撫でる瞬間ビクッと動いた。


 「おう、いい子じゃねえか」


 「こいつあ驚いたぜ。このイヌコロがおれ以外に大人しく体を触らせるなんて、しかも頭を撫でさせるなんて。普通のヤツなら一噛みだぜ」


 危害を加える相手ではないと安心したのか、今は俺に撫でられ、喉をゴロゴロ鳴らしている。


 「なんでえ、こいつの名前。イヌコロって言うのかい?」


 「へえ、親分、しっかし、さすが親分だ。まるで仔犬みてえになついてるぜ。やっぱ親分は魔人さまだ」


 「偶然だよ。気が合うんだろう」


 イヌコロはデカイ体を仰向けにして、お腹を見せていた。俺に完全服従のポーズである。


 「おうおう、イヌコロ。おめえも親分にゃ敵わねえのが分かるらしいな。俺と一緒に親分の子分になるか」


 ちっ困ったもんだぜ。あっちの世界から飛び込んできて、早速、子分ができちまった。しかもな凶暴な熊と狼だぜ。まったく。


 まあ先ずは、ここがどんな世界なのか見極めねえといけねえな。あっちの世界でも漢一匹それなりにはキメてはきたが、こっちの世界でもどうやら俺は超人みてぇだしな。


 鬼が出るか、蛇が出るか、これからが楽しみになってきやがったぜ。


 「じゃあ熊、世話になったな。俺はそろそろ失礼するぜ。イヌコロも元気で暮らせよ」


 「親分、どうしても行きなさるか。じゃあ、おれらも親分と一緒にお供させてくだせぇ」


 「おいおい、余計な気を使うなよ。俺は一人で大丈夫だ」


 「まだ真っ暗な山の中。山の主や狼や出会うかもしれねぇ。まあ親分なら何が出ても怖いもの無しだろうが。しかし暗い山の中だ、俺が案内しますだ」


 めんどくせえな。断るのもよ。まあいいか、お供を連れてこちらの世界をのぞいて見るとするか。


 「わかったよ、熊。じゃあおめえに案内を頼むぜ」


 まるで羆みたいな顔を、嬉しそうにクシャクシャにして喜ぶ熊。


 「任してくだせえ親分。よおし、じゃあ出掛けるか。イヌコロ、おめえもついて来い」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る