第4話 時の扉2

 草原にぽつんと建つあばら家に向かう。強い風が吹けばぶっ飛びそうなオンボロな木造の家だ。


 俺の時計では2時48分。暗い夜空には、月が浮かんでいる。こっちの世界でもたぶん深夜であることには間違いねえようだ。


 あばら家の入口らしいボロの木戸の隙間から弱い明かりが漏れている。


 「ぐぅるるるー」


 闇に響く唸り声。木戸の向こうの大木の根本に紐で結ばれている黒い塊が低く唸った。秋田犬ほどのデカさだろうか、いやもっとデカい。月明かりの中で不審者を威嚇している。


 ふふふふ俺は不審者だからな。紐で木の根本につながれていなければ、俺の喉元にかぶりついているところかもしれねえな。


 犬をつなぐってことは、人が住んでるってことだよな。まさか魔物や獣が犬を飼うってことはねえだろうからな。


 近くに落ちていた一握りほどの太さの枝を掴んで犬に近づく。とりあえず枝を噛ませて、唸り声を止めなくちゃならねえからな。


 こいつあ可愛くねえな。鋭い歯を剥き出していやがる。枝を差し出すと噛み砕かんばかりに食いついてきた。


 枝の端を掴んで、ちょいと振るとデカい犬が遥か遠くにぶっ飛ぶ。ありゃりゃ、どうしちゃった?いつの間にかずいぶんと怪力になっちまったようだ。


 犬が繋がれていた周囲がゆうに3m程ある大木の根元には、ちぎれた紐のみが残っていた。試しにぶっとい幹を軽く殴った。バキャッという鈍い音と共に見事に折れている。


 なんかわからねえがメチャクチャ怪力になっているようだ。樹の横ある高さが2m程の大きな岩を試しに軽く押してみた。おいおい、まるで張りぼてみたいに軽く動くぜ。


 この世界は超人世界なのかい。確かに妙に体がふわふわ軽い。重力がやたら小さいみてえだな。軽くジャンプしてみた。ヤバいぜ。まるでロケットみてえに高々と空に舞い上がった。


 間違いねえ。この世界は超人世界みてえだな。100m 以上は飛び上がった空から、ひらりと地面に軽く着地した。


 笑っちゃうぜ、まったく。これじゃまさしく超人。マンガの世界じゃねぇか。


 思いっきり空に飛び上がったら、月まで行けそうな感じだぜ。しかも高い空から飛び降りても全く足の痛みもねえな。なんか気のせいか身体中に力がみなぎってるぜ。


 でもよお、この世界がどんな世界でどんな野郎が棲んでいるのか、それに超人の力が俺だけなのか、それともみんな超人ばかりの世界なのか。


 まあ、あわてるこたぁねえな。

 時の扉から飛び込んだこの世界。


 なかなか面白そうじゃねぇか・・・・・

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