第3話 時の扉1

 疲れてたのかもしれねぇ。部屋の照明が突然点滅し、目が回るような不快な感覚に襲われた。天井が壁が床が部屋全体が揺れて回る。


 揺れて回る部屋の中にぼんやりと何かが現れた。次第に形を結び古いが頑丈な木製の扉。如何にもいわくありげな扉が現れた。


 まずいな。こいつは、たぶんあの『時の扉』じゃねぇか?時刻は当然魔の1分間だ。この部屋に時空間の歪みによる混沌が生じたに違いねえな。


 ヤバイぜ。どっかの世界が俺を呼んでるのか。この黴臭い扉を開けりゃあ、過去か未来の世界にひとっ飛びってわけだ。


 行ってみるかい、飛んでみるかい。招かれて怖じ気づくほどビビっちゃいねえ。しかし、この扉を開けちまったら、2度とこの世界には戻ってこらねえかもしれねえな。


 どうする? 風介。

 飛ぶのか? 飛ばねえのか?

 この世界にゃさほどの未練はねえ。

 漢は度胸だ、一発、飛んでみようぜ


 左手に掴んだ江戸切り子のバーボンを喉に一気に流し込む。右手の指に挟んだノアールを口元に運び、右の口角で軽く咥えた。


 扉の取っ手を右手で掴み一気に開く。中を覗き込む。無限の闇の空間が拡がっている。


 度胸を決めて無限の闇に飛び込んだ。身体が、心が、大きな渦に呑まれたように舞い上がり急降下し、回転し翻弄される。目が回り吐瀉しそうな不快感に一瞬意識が飛んだ。


 ほんの数分かもしねえし、もしかするともっと長い時間だったのかもしれねえ。柔道で投げられたように、腰からドスンと落ちた。


 暗い、どうやら森の中みてえだ。まずは、ここがどんな世界なのか確かめねえといけねえな。


 淡い月明かりを頼りに深い森を抜けると突然視界が広がった。膝ほどの高さの草が茂る草原の中に一軒の木造のあばら家が目に入った。


 俺のお気に入りの時計、コルムのジョリーロジャーは2時40分を指している。後はポケットにあるジッポのトルネードドラゴンとメンソールタバコのノアールぐらいしか元の世界のものはねえな。


 足は裸足。迷彩のハーフパンツに真っ赤なTシャツ。ちっ、部屋にいたまんまの格好でこっちの世界に飛び込んじまったか。


 まあしょうがねえか。とりあえず一服してから動き出すとするか。細身のタバコに火を贈り、ジッポをカチンと鳴らす。


 何か聞こえるぜ。遠吠えみてえな声だな。どうやら犬の声らしい。この世界にも犬はいるらしいぜ。 できれば人間も居てほしいもんだぜ。


 過去や未来でも人間世界なら、なんとかなるが、恐竜や魔物の世界にでも迷い混んだらちょっとことだぜ。


 くわえたタバコを地面に落とした。裸足の足で火の点いたタバコを踏み消す。足の裏が焦げる臭いがした。

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