第32話 魔人の強さ2

 しかも、20人を超える我ら武田の忍び、全員を1人で相手にするという。


 『ふざけるな。武田の忍びをなめるな』


 最強猛陀軍の4兄弟の魔人寛介といえど、20人を超える我ら武田の忍び、間違っても遅れを取ることなど考えられない。いやむしろ我らの力を侮辱されたのだ。郷右衛門は怒りに体が震えた。


 武田の三ツ者全員に怒りが燃え上がり、爆発するような押し殺した殺気が鍛錬場に充満する。


 「伸方さん、猛陀の強さをご覧にいれよう。ちょいと遊んでくるぜ」


 「伸方、この目で見せていただこう」


 「武田の衆、いくぜ」


 まったく普段通りの一歩を踏み出した寛介。瞬間に姿が消えた。武田の三ツ者達も刃を背中に隠し寛介に襲いかかろうと動き始める前に、寛介の姿が飛び込む。いや寛介の残像が・・・・・


 先程の又兵衛の分身の術よりも、格段に捷い。武術に長けた伸方と頭の郷右衛門でさえ

10人の寛介の分身を見極めるのが精一杯であった。


 数秒、いや一瞬であったかもしれない。意識を失った三ツ者たちが地面に倒れていた。一人を残して・・・・・


 頭の郷右衛門だけを残して・・・・・


 「どうだい頭。猛陀の強さ。今度はお前さんの方からかかってこいよ」


 郷右衛門は一瞬で寛介との距離を詰める。左足の裏で寛介の右足の膝を潰す。さらにニの手として背中に隠した右手の白刃を、膝への攻撃とほぼ同時に寛介の頭部を上段から真っ二つに断ち割る神速の攻撃を仕掛ける。


 笑っていた。今まで誰にも防がれたことがない連続攻撃を、寛介は笑って右膝への攻撃をかわし、さらに左手の平をかざし、頭部に打ちおろされる郷右衛門の必殺の白刃を、人差し指と中指の2本で挟み止める。


 「ぴしぃ」


 鋭く空気を割く音と、寛介の左手指に止められた白刃の音が、同時に空気を震わした。


 頭の連続攻撃は続く。止められた白刃を自ら離し、左手に付けた手甲釣で寛介の顔面を引き裂く。


 手甲釣を振り下ろす左手の手首を掴まれ、その瞬間に左手首走った激痛に左手の感覚を失くした。


 笑っていた。確かに寛介は笑っていた。あまりにも違い過ぎるのだ。自分の鍛え抜いた術など全く通じはしないのだ。


 この相手は人間ではない。

 攻撃しながら背中に悪寒が走る。

 間違いなく殺される。


 寛介の強さに恐怖しながらも、握り潰されそうな左手首を軸に、右足を寛介の股間に飛ばす。


 寛介は左手指に挟んだ郷右衛門の白刃を離す同時に、その左手刀で股間に伸びる郷右衛門の右足を軽く打った。


 神速の4連続、全ての攻撃を完璧にかわされた。笑いながら。まったく通用しない。郷右衛門は死を感じ、恐怖に時は止まった。

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