第31話 魔人の強さ1
闇の中で屋敷内の鍛錬場に、無数の気配が動いた後、6つの影も鍛錬場に動く。
後ろ手に縛った板垣伸方の両側を2人、前後にも1人ずつ、計4つ影が囲むように動く。その5つの影の塊の先を進むのは、もちろん寛介である。
弓や乗馬、武術などを磨く鍛錬場を、雲間から覗く月の薄明かりが淡く照らしている。
広い鍛錬場に2つの集団の影が対峙した。
大きな集団は片膝を付いて控えている。
小さな集団は立ったままである。
無音の闇に、伸方の声が流れた。
「郷右衛門、伸方である。今より手加減無しの技合わせを行う。本気の命のやり取りだ、一切の手加減は無用である。先ずは1人前にい出よ」
「3人、いや5人でいい」
「承知した。そちらの望みなら5人参る」
無言のまま、大きな集団から5つの影が立ち上がり、音もなく中央に進む。
「又兵衛行け。遅れを取るなよ」
小さな集団から1つの影が中央に進む。
「始め!武田の忍びの力を見せよ」
ほんの一瞬の出来事であった。白刃を打ち合う金属音もないまま、1つの影を囲み一斉に襲いかかった5つの影が地に伏していた。
5つの影が後ろ手に白刃を隠しながら、真ん中の影に襲いかかる。前からの1つは首を断ち切るために。左と右の影はそれぞれ左右の腕を、そして後方の左右から左右の足を狙う。
複数で1人の相手を倒す、訓練された攻撃の形である。通常であれば一瞬にして体を6つに分断され死を迎える。通常の者であれば・・・・・
対する又兵衛は、腰に差した忍者刀を抜くこともなく、手甲にはめた金属製の防具で拳を固め、相手に一撃ずつ打ち込んでいく。
捷い、あまりにも捷い。武術に長けた伸方にも、忍びの三ツ者さえも、又兵衛の動きは分身の術を使ったように、朧げな残像のみを残し5人の又兵衛が一瞬にして5人の三ツ者を叩き伏せたように見えた。
「ふぅーむ、見事だ」
伸方の口から思わず感嘆のため息が漏れた。
「次、5人前に」
「いや5人と言わず何人かかっても同じことだ。次は俺がやる。頭と残り全員まとめてお相手しよう」
「何?何と言われた?ここにに居る武田の三ツ者全てを相手にすると言われるか?」
「武田の忍び衆よ、戦う前に名乗っておこう。俺は風林火山の猛陀寛介だ。命まで
は奪いはしねぇ。遠慮なくかかって来な」
たった今、目の前で自分が鍛え育てた凄腕の配下が5人、一瞬に倒された。分身の術で。そして今度の相手は、最近、噂の高い最強の猛陀軍を率いる4兄弟の末弟、魔人の寛介という。
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