第6話 化物2

 「熊野郎が、デカい口たたくんじゃねえ!」


 俺はよ、光り物持った相手には特に遠慮なく打ちのめすことにしてるんだ。熊野郎、覚悟しとけよ。身構えると同時にブンと風を切って鉈が俺の肩口に降り下ろされた。


 遅えな、まるでスローモーションの映画みてえだ。鉈を軽くかわして、熊野郎の胸元に入ると薄汚え襟元を掴んで軽く引き寄せ、同時に髭面のど真ん中、鼻柱に軽く頭突きをぶち込む。


 「ごしゃっ!」


 肉が潰れる音がして、熊野郎は2、3メートルはぶっ飛び、引き戸もろともぶっ倒れた。真っ赤な血飛沫が噴水のように上がって、半分意識はぶっ飛んだようだ。


 「ちっ、口だけかよ。おい大丈夫か?」


 ぶっ倒れている熊野郎の顔をのぞき込みながら声をかけた。熊みてえに筋肉で盛り上がったゴツい肩を軽く揺すって、ぶっ飛んだ意識を呼び戻す。


 戻った意識の中で、覗き込む俺の顔を恐ろしそうな目付きで見上げながら


 「誰なんだ?おめえ、いやあんたは?」


 「さっき名乗っただろう、風介だ。それより大丈夫か?出血がすごいみてえだが。おめえが鉈なんか持ち出すから、俺もつい気が入っちまった」


 そばに転がっている鉈の鈍く光る分厚い刃を拳で軽く殴った。まるで発泡スチロールのオモチャみてえに粉々に砕け散った。


 それを見ていた熊野郎。まるで化け物を見るみてえに、血塗れの髭面で俺を呆然と眺めている。


 「あんたは、いやあなた様は人間じゃねえな。化け物か?それとも神さまか?」


 まったく困っちまったぜ。俺はこの世界じゃあ人間じゃねえようだ、これじゃあ確かに化け物かもしれねぇな。


 「おめえの名前は?」


 俺の質問に熊野郎は起き上がり、まるで叱られた子供みてえに地面に正座して答えた。


 「おらぁ熊っていいます。この辺りじゃ百人力の熊って呼ばれてます」


 「熊か、おめえは山賊か?」


 「へえ、この界隈では知らねえ奴はいねえ半端者。しっかし、おらぁ生まれて初めてだ。喧嘩で敗けたのは・・・・・」


 「まあ、いいってことよ。それより熊、何か食い物はねえか?」


 「いくらでもありまさあ。飯でも肉でも」


 「そうかい、ありがてえな。腹が減って死にそうなんだ。俺に馳走してくれねえか」


 「任せてくだせえ。ところで、おらあ。あなた様を何て呼べばよろしいんですかい?」


 「俺か?俺は風介だから。風さんって呼んでくれよ」

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