第36話 武田陥落2

 「おいおいあんまりおだてんなよ。それよりこれからが武田潰しの本番だ。一気に片付けよう。寛介のところに応援部隊を繰り出そうじゃねぇか」


 概ね1時間後。厚く黒い雲がかかる暗い夜空を風のように山を下る。まずは林の軍の2つの影、あの2番隊の又兵衛と新八が連絡隊として先乗りだ。


 30分ほどおいて6つの影。猛陀の副将、信茂と火の軍2人、信圭と山の軍2人。もちろん向かう先は武田の領だ。


 猛陀4兄弟の3人が自ら武田軍に潜り込む。何という大胆な作戦だろう。昨夜の23時30分ほどから始まった夜討ち。1時間で板垣伸方を落とし、日の出にはまだ2時間ほど残した4時前には、伸方の屋敷に陣取る寛介の元に、信茂と信圭の応援部隊が合流していた。


 伸方宅に林の軍3番隊の2人を残し、四天王の残り3人、甘利虎安には伸方を引き連れ寛介が、飯富虎正には信茂が三ツ者の頭の郷右衛門を引き連れ、そして小山田虎光には三ツ者の副頭を引き連れ落としにかかった。


 1時間も経たずに3人も落とし、三兄弟は四天王を引き連れ、武田の総大将、武田伸虎の寝所を襲う。


 天下統一の夢でも見ていたのであろうか、安らかに眠る伸虎の夢を破った。


 「お前たち、何者だ?」


 小声ではあったが、胸元に数本の白刃を突きつけられながらも、臆せず周りを囲む大勢の影に鋭い目線を走らせた。


 「ほう、これだけの敵に囲まれてもびびらねぇとは、さすがは武田の総大将だ」


 「何者だ?」


 「我等は、風林火山の旗印で噂の魔人軍、猛陀の者だ。総大将の前だ。一応名乗らせてもらおう。俺は猛陀信茂、同じく猛陀信圭、そして猛陀寛介だ」


 「なに?あの猛陀の三兄弟、真か?」


 「嘘などついて何になる。猛陀三兄弟が自ら武田本陣に夜討ちに参った。ご覧の通り配下の四天王は、既に我等猛陀に信を誓った。あとは総大将のあなたの首をいただいて、この戦も終わりだ」


 「何?板垣、甘利、飯富、小山田、お前たち武田を捨てて裏切ったか?」


 「どうだい伸虎さん。このままあなたの首を取るのは簡単なことだが、できれば無駄な血を流したくないんだ。あなたが我等の条件を飲めば、あにたの命は助けよう」


 「四天王まで寝返った今、儂に残された途は1つだけ。死することのみだ。今更この命惜しいとは思わぬが、妻や身内の者もいる。できればせめて身内の命だけでも、保証してもらえぬか?」


 「我等の条件さえ飲んでもらえるなら、身内の者はもちろん、あなたの命も保証しよう。もうこの戦いは終わったんだ。諦めて条件を飲んだらどうだ?」

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