scene 24
卒業式
ピリリリッ、ピリリリッ、ピリリリッ……。
目覚まし代わりの携帯アラームの音が鳴り響く。
「ん……朝!?」
私はひっそりとベッドから抜け出し、テレビを付け、シャワーを浴び、朝食の支度を始める。
何処にでも居る普通の専業主婦だ。
「おはよう」
私に遅れること30分、夫が大欠伸をしながら、もそもそと食卓につく。
地元ではそれなりに有名な会社のサラリーマンをやっている。
「
そう言って、食卓を離れて私は娘を起こしに行く。
「心、もう朝よ」
「ん……わかった」
今年で小学校を卒業する、私たちの娘だ。
私と夫である日向は、同じ大学の同級生だった。更にいうと、小学校、中学校、高校も一緒だった。いわゆる、幼なじみの腐れ縁というやつだ。
大学4年生の時に起きたある事件の後、失意の底にいた私を献身的に介護してくれたのが日向だった。24歳の時に結婚、25歳の時に心を出産した。
今日は心の通う小学校の卒業式。私も日向もよそ行きの装いに着替え、車に乗る。
「心も小学校卒業か……時が経つのは早いな」
車を運転しながら、日向が私にそう話しかけた。
「そうね……私達ももう随分と長いこと一緒に居るわね」
「俺達、ほっんと腐れ縁だよな。もう30年は一緒に過ごしたかな?」
「ふふふ……そうね。日向は小学校から全然変わってない。勿論、性格がよ!!」
「俺、小学校から全然変わってないか? 俺的には随分と成長したと思うが……」
「どこが?」
「……お、お前に優しくなった」
「うーん。私は感じない」
「ひどい女だ……」
日向はぽつりとそう呟いた。
「何か言った?」
「いや、何も……」
「ふふっ、嘘よ!! 日向、随分変わった」
「そうか?」
「私には勿論優しいし、心にもしっかりとお父さんしてる」
「ははっ、そう言われると照れる。昔は確かに、お前に優しくなかったかもな。ごめんな」
「何を今更。そんなの、とっくに許してるから」
会話が途切れた。
「そういえば、さ……。今日の夢の中に、白斗君が出てきたよ……」
「白斗?」
「まさか、忘れた?」
「まさか、白斗な……」
日向はそう言ったかと思うと、「あいつのことはもう忘れろよ……」再び、ぽつりとそう呟いた。
「忘れろ、だって!! ひどい!! 私達3人、幼なじみだったじゃん!!」
私は語気を強めてそう言うと、日向は命令口調でこう言った。
「あいつが亡くなって、15年か……。あいつは、お前を不幸にさせた。だから、もう忘れろ!!」
「日向はあの事件の事、まだ根に持ってるの? 私に関しては、私はもう何も感じてはいないよ」
「お前はやっぱり、白斗にも優しいな……。でもだめだ、俺はアイツを許さない!! 絶対に!!」
日向は、そう強い怒気のこもった声を出して言った。
「……そう……ごめんなさい……」
そして、会話は途切れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます