scene 05
どうしようもない二人の距離。
その日、その後どうやって過ごしたか全く覚えていない。気が付くと、もう次の日の朝がやって来ていた。
白斗君と電話で話していたのは、もう随分昔のように感じる。でも、ワタシが告白したのも、白斗君が泣いていたのも、結局白斗君に告白されてそれを断ったのも、全部昨日のことなんだ……。信じられないよ……。
時計を見ると、いつもより遅い時間。早く起きて、学校行く準備しないと……。起きて、鏡を見ると、顔が赤く腫れて、ひどいことになっている。ははは……ひどい顔だ。
ワタシは急いで支度をして、1階に降りたが、両親が普通にリビングでくつろいでいる。
そっか……。今日は土曜日だった。ワタシは、白斗君が好きだった。白斗君と話して、何が好きだったかもわかった。でも、ワタシは白斗君の告白を断った。それは……何故かわからないが、日向のことを急に思い出してしまったからだ。何故、日向のことが頭をよぎったのかわからない。でも、ワタシの中で何かとっかかりを感じたんだ。
ワタシはひどい女だ。白斗君にあそこまで言わせておいて、断った。でも、白斗君が本気だったからこそ、ワタシも本気で答えないといけないと思ったんだ。ワタシの頭の中には、白斗君の他に日向の存在もあった。それは、白斗君に比べるととても小さな存在だ。でも、そんな日向の存在が現在の私を形づくっている気がする。日向は只の仲の良い友達、そうなんだろうな。でも、ワタシにとって、白斗君よりも近い存在のような気がするんだ。
日向は、ワタシに対してひどいことをしてくる。だから逆に、日向にひどいことしても良いんじゃないかと思ってしまう。それは、本当は良くないことなんだろうな。でも、ワタシにはそんな日向がちょうどいい。白斗君と対等になるには、日向と切磋琢磨することがよいのではないのかな? そんなことを考えながら、一日は過ぎて行った。
◇◇◇
月曜日、郵便受けを見てみると白斗君から手紙が届いていた。それにはこう綴られていた。
楓 菜穂様
この間は電話、ありがとう。
楓の言葉が聞けて嬉しかった。
俺、1ヶ月にいっぺん、定期的に手紙送ります。
離れていても、俺の気持ちは変わりません。
楓を振り向かせることが出来るように、楓にとって良い男になります。
それが何かはわかりませんが、俺なりに努力します。
迷惑なら言って下さい。
それではまた会える日まで、お元気で。
白木 白斗
ワタシは手紙を返さなかった。
◇◇◇
1ヶ月が過ぎた。
「菜穂、明日がコンペの結果発表の日だよな」
「そうだね」
日向の問いかけに対し、何の気なしにそう答える。日向に言われなくてもわかっている。いよいよ、明日がコンペの結果発表の日だ。
「俺の書いた、
「さぁね」
日向は、侍姿のオジサン、庫野町宵太郎を応募していた。正直、日向に負ける要素はないと思うが、万が一負けるとなると恥ずかしいな……と思っていた。
「お前の書いた、コノマチメーサンズ、だっけ。確かにアイディアは良かった気がするが、俺の宵太郎の方がよいだろう」
「はいはい、洒落は良いから」
あれから、日向との関係は全く変わっていない。いや、日向と会話する機会は増えたかな? まあ、それくらい。白斗君の居ない学校生活は、寂しくないと言えば嘘になるが、それなりに過ごしていけている気がする。
コンペの結果は、明日発行の町の広報に載る他、町のホームページに掲載されるらしい。最優秀作品は、町のイメージキャラクターとして採用されることはもちろん、副賞として町から記念品が送られるそうだ。
最優秀作品の他に、優秀作1点、佳作3点、審査員特別賞1点などが用意されている。
なんと、300点を超える応募総数だった。
この中で最優秀作品に選ばれるのは、正直難しいと思う。
白斗君は、作品は人の心を写す、と言っていたのを思い出す。ワタシの作品は、審査員にどのように映ったのだろうか……。ワタシは、白斗君に告白されたあの日のように、色々なことが頭に浮かんできて、その日なかなか眠りに就くことが出来なかった。
そして、次の日……。
ワタシは起きて直ぐに、町のホームページをチェックした。
「イメージキャラクター選考の結果……あった」
佳作、審査員特別賞、優秀賞、最優秀賞と書かれており、クリックすると受賞者の名前と作品が出てくるようだった。
佳作をクリックした。ワタシの名前は……ないか。
次に優秀賞をクリック。うーん……ないな。
審査員特別賞は……、
「あった……」
なんと、ワタシの作品は審査員特別賞を受賞していた。
審査員のコメント欄が載っていたので見てみると、
『庫野町をよく捉えた作品。アイディアも申し分ない。ただ、キャラクターの数が多すぎて目移りしてしまう。』
と書かれていた。
キャラクターの数については、先生にも言われていたが、やっぱりラクロスメンバーが揃わないと……と思い、変えなかった。そこが、やっぱり良くなかったんだ……。でも、審査員特別賞なんて貰えるなんてびっくりだ。信じられないが、白斗君にワタシは勝ってしまった。これで、白斗君とも決別しよう。ワタシはそう思った。
「最優秀賞は誰だろ?」
最優秀賞をクリックすると作品と共によく知る名前が書かれていた。
「白木 白斗……」
最優秀賞は、白斗君だった。
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