scene 06

ワタシの気持ち。彼の気持ち。

 ワタシは白斗君が怖い。なんでも出来る白斗君。ワタシを愛してくれている白斗君。そして、今日また手紙が届いた。



 楓 菜穂様


 コンペの結果、発表されたね。


 審査員特別賞、おめでとう!


 やっぱり、あの作品は良かったよ。


 楓はやっぱり凄い!


 自分に、自信を持った方がいいよ。


 それもだけど俺、最優秀賞取ってしまった。


 評価されたことは嬉しいけど、楓に嘘をついてしまったね。


 本当に自信がなかったんだ、ごめん。


 取れたから、どうこうでももうないけど、俺、今度その関係で庫野町に行くから、会えたら良いな。


 それではまた、お元気で。


 白木 白斗




 今回も手紙は返さなかった。いや、返さないというよりも返せない。どんなに繕っても、白斗君にはワタシの気持ちが全て見透かされているような気がするからだ。白斗君の“何か”に触れる度に、ワタシの心は大きく揺れ動かされる。白斗君の存在は、今も凄く大きい。そして、ワタシは白斗君が今も好きだ。


 白斗君は有言実行する人だ。白斗君なら信頼出来る。白斗君に全てを委ねても良いかもしれない。そんな気もしてくる。

 

 しかし、心のどこかで裏切られるのではないか。そう思ってしまう。ワタシは、付き合い出したワタシが白斗君無しに戻ることは出来ないとも思える。白斗君に、完全に依存してしまうかもしれない。だから、ワタシは白斗君が怖い。


 仮に……もし、白斗君が転校していなければ、ワタシは白斗君と付き合っていただろうか? もし、ワタシが学校を休まなければ、白斗君と付き合っていただろうか? もし、ワタシが電話で断らなければ、白斗君と付き合っていただろうか? もし、この手紙を返したら……?


 白斗君のことは怖いが、そんなことばかりが頭を巡る。もっと簡単に考えれば、済む話なのかもしれない。もっと簡単に考えれば。


 そんなことは、頭ではわかっているのだ。


 今でも、白斗君はこんなにワタシを好きでいてくれている。そんな白斗君が、今もワタシは好きだ。嫌いになんてならない。だから、普通に手紙で応じれば済む話なのだ。電話だって出来る。会うことだって出来る。そんなことわかりきっている。


 でも。行動には移せない。ワタシにも、意地があるのだ。一度断った告白を、そう簡単に覆すことは出来ない。



 ◇◇◇



 ワタシは手紙を返さないにもかかわらず、白斗君は最初の手紙に書いていた通り、一ヶ月に一度、必ず手紙を送ってくる。


 学校生活のこと、進路のこと、小沼吾乃市のこと、本当に色々な話題を書いてくれる。それだけで、ワタシは白斗君と付き合っていると錯覚する。白斗君は、ワタシだけを見てくれている。


 心のどこかで、ワタシはこれを望んでいたのかもしれない。いつまでも、白斗君はワタシのことを想ってくれていて、ワタシも白斗君のことを考える。これ以上の関係になりたいなんて、ぜいたくは言わない。


 友達以上、恋人未満。この関係が、永遠に続いて欲しいと思っている。それが、白斗君にとってもワタシにとってもよくないことはわかりきっている。でも、止められない。ワタシは、どこまで醜い女なのか……。

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