scene 07

進路選択の時期です。

 月日は流れ、ワタシも高校受験をしなくては行けない時期が来た。白斗君は、地元では有名な進学校を受験すると手紙に書かれていた。ワタシの学力では、とてもじゃないが受からないであろう高校だった。


『高校で楓と会えることを楽しみにしてます。』

と書かれていたが、ワタシは避けた。


 近くの女子高を受験することにした。日向は野球で良い成績を残していたので、スポーツ推薦を既に決めていた。


「菜穂は女子高を受けるのか。高校からはバラバラになるな。」


「そうだね。」

ワタシは日向にそう言っていたが、ワタシはこっそり日向が合格を決めた高校にも、願書を提出した。日向の合格した高校は、今度ワタシが受ける女子高よりも早くに試験がある。少しレベルの高い高校だが、しっかりと勉強したし、大丈夫だろう。


 そして、試験当日。申し込み順に番号が振り分けられているようで、ワタシは真ん中くらいの受験番号だった。科目は国語、数字、英語の三教科だった。ちょっと間違えちゃったけど、手応え充分。試験も終わって、ワタシは正門から帰ろうとしていた。


 すると、正門に見覚えのある姿があった。ワタシは思わず、その人をじっと見つめてしまった。ワタシの視線を感じたのか、その人も、ワタシに気づいた。


「楓……だね、やっと会えた。」


 そう、その人とは紛れもなく白斗君だった。久しぶりに見る白斗君から、目が離せない。白斗君は徐々に近づいて来て、ワタシの前、150㎝位で足を止めた。


「久しぶり……だね。」


 白斗君は頭を掻きながら、照れ臭そうにワタシの目を見つめて笑顔でそう言った。

 ワタシは白斗君を見つめたまま、呆然と立ち尽くしている。


「ずっと会いたかったよ……、楓。」


 白斗君は、続けてそう言った。

 ワタシは言葉が出てこない。無言のまま、その場に立ち尽くしている。


 それを見た白斗君は、

「ごめんね。」

白斗君はそう言って、不意にワタシの手を握り、引っ張った。


「えっ!!」


「ここじゃなんだし、別の場所で話そう!!」


 ワタシはいきなりのことで少しよろけたが、すぐに体勢を立て直し、白斗君の足取りに合わせて操られるがまま付いて行った。

 5分くらい歩いただろうか。


「ここなら誰も来ないかな?」


 白斗君はワタシを引っ張って、高校近くの小さな神社の境内までやって来た。


「白斗君……」


 一言目、ワタシは白斗君にそう話しかけた。


「いきなり手を引っ張って、ごめんね。楓と二人きりで話がしたかったんだ。」


 そう言って、白斗君はワタシの手を離す。


「楓、時間大丈夫?」


 白斗君は不意にワタシにそう尋ねた。


「え? うん、今日は試験受けるだけだから。」


 ワタシはそう言った。


「そう、良かった。楓と話したいこと、沢山あったんだ。」


「ワタシは話したいことなんてない。」


 素直になれないワタシはそう言った。


「楓、そんなこと言わないでさっ!! お願いっ!!」


 そう言って、白斗君はワタシに頭を下げた。


 白斗君、そんなことしないでよ。


「しょうがないわね……わかったわよ。」


 ワタシは諦めたようにそう言った。


「ありがとう、楓っ!!」


 白斗君は嬉しそうにそう言った。白斗君、何を話してくれるんだろう? ワタシはそれを考え、期待する。間もなく、白斗君はワタシに話し始めた。


「俺さ、楓と同じ高校に通いたいんだ!!」


 白斗君は単刀直入にそう言った。


「通ってる高校が違うと、やっぱり楓のことがわからない。楓のことをもっと知りたいのに。」


「…………」


「……今日、楓に会えたのはさ、偶然であって偶然ではないんだ。」


「……どういうこと?」


「俺、手紙に書いた高校も受けるけどさ、受けられる高校は全部受けておけば、楓に会えるんじゃないかって思ったんだ。だから、受けられる高校は全部受けて来た。そして、今日この高校で君に会えたんだ。俺さ、ここでなくても楓が選んだ高校に進学したいんだ。」


 ワタシもそれは考えてた。もしかしたら、白斗君も同じ高校を受験するんじゃないかということも。


「……白斗君、ワタシさ、女子高に行きたいんだよね。」


「えっ!?」


「だから、白斗君の望みは叶わないのよ……。残念ながらね……。」


 ワタシはそう言って、白斗君を突き放す。

 本当は、ワタシも白斗君と会えるかもしれないと思って、この高校を受験したのに。

 続けて、ワタシはこう言った。


「白斗君の気持ち、良くわかってた。けど、ワタシはこういう人間だから。白斗君とは釣り合わないよ、きっと。だから、白斗君はワタシなんて忘れて、手紙に書いてた高校に行ってさ……」


 白斗君は驚いたようだったが、ワタシの言葉を遮ってこう言った。


「それでも、ここを受けるってことは俺のことを考えてたってことだよね。じゃあお願いだ、女子高になんて行かないでくれ!!」


 白斗君は更に続けてこう言った。


「俺には、楓の気持ちが理解出来ない。俺が受けるとわかってて、なんでこの高校を受けたんだ? 滑り止めか? 楓の受ける女子高のほうが偏差値が低いのに? 俺のことが楓はそんなに嫌いなのか、迷惑なのか?  だったら、今ここではっきりそう言ってくれ!!  でないと、俺は諦め切れないよ!!」


 白斗君、凄く哀しそうな顔をして、ワタシの方を見る。もう、そんな顔しないで。


「……あー、もう。ワタシは白斗君のこと、嫌いでもないし、迷惑もしてないよ!!」


 すると、白斗君は困惑した顔を見せた。


「じゃあ……どうして?」


「ワタシはワタシで白斗君のことを考えてるの!! こんなわたしと居ても白斗君は幸せになれないよ、それでもいいの!!」


 ワタシはそうまくし立てる。


「……わからない。わからないよ!! じゃあどうして、君も俺も今苦しんでるの?」


 白斗君は問い掛ける。


「えっ?  そんなのわかんないよ……」


 白斗君はこう続ける。


「君は複雑に物事を考えすぎだよ……もっと単純に考えようよ。俺は君が好きだ。君は?」


「……ワタシも……貴方が好き……」


 白斗君は満足気な顔をしてこう言った。


「それでいいじゃない。」


 その言葉を聞いたワタシの目から、堰を切ったかのように涙が溢れ始めた。


「わかってた……ワタシも……白斗君のこと……好きなの……どうしようもなく……好きなの……」


 涙が止まらない。感情が溢れてくる。


「ワタシ……素直になれなくて……こんな自分が嫌で……白斗君とは釣り合わないって……自分で勝手に思って……」


 白斗君は何も言わない。只じっとワタシの話を聞いている。


「そしたら、ワタシ、なんでもできる白斗君のことが怖くなって……遠い存在のような気がして……」


 だめだ、止まらない。


「白斗君……ワタシのことだけを見て……ワタシを裏切らないで……」


 あぁ、言ってしまった。もう白斗君が見れない。白斗君、どう思うだろう……。


 すると、不意に背中に温かい温もりを感じた。


「俺は君のものだよ、菜穂。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る