scene 08

ワタシの決めた道

「あれ? 夢だったのかしら……。」


 気が付くと、自分の部屋で横になっていた。疲れて自分のベッドでひと眠りしたんだ。今日は、えっと……戸乃学園高校どのがくえんこうこうの入試があって、その帰りに白斗君に出会ったんだ。ワタシは拒絶したけど強引な白斗君に連れられて神社の境内に行って、白斗君の話を聞いたんだ。その内にワタシは自分の気持ちが抑えられなくなって色々と言ったけど、白斗君は全部受け止めてまたワタシに告白をした。ワタシも自分の気持ちが抑えきれなくなって、泣きながら白斗君の告白を受け入れたんだ。そして……


 ~~~~(回想)~~~~


「白斗君……ワタシのことだけを見て……ワタシを裏切らないで……。」


 あぁ、言ってしまった。もう白斗君が見れない。白斗君、どう思うだろう……。


 すると、不意に背中に温かい温もりを感じた。


「俺は君のものだよ、菜穂。」


 白斗君が、ワタシの後ろからそっと覆い被さるように抱き締められ、耳元でそう言われた。

 そして……ワタシの顔は右に傾けられ白斗君の顔が重なった。


「んっ……」


 お互いの顔が離れた。


「……ごめんね、急に……我慢出来なかった……」


「白斗君……」


 ~~~~(回想終わり)~~~~


 そっか、ワタシ白斗君とキスしたんだ。初めてのキスは、涙の味がしたな……。その後、どうしたっけ……。ワタシは頭を巡らせて考える。


 そうだ。


 その後もしばらく、ワタシが泣き続けてたんだ。そして……


 ~~~~(回想)~~~~


「菜穂、落ち着いてきた?」


「うん……。」


 辺りはすっかり暗くなっていた。


「もう遅くなるから、そろそろ帰ろっか。」


「えっ……ワタシ、もうちょっと白斗君と居たい。」


 ワタシはそう訴える。


「俺もそうしたいけどさ、そろそろ帰らないと親御さんも心配するよ。さっ、帰ろう。」


 そう言って、白斗君はワタシに立つように促した。


「じゃ、帰ろうか。送って行こうか?」


「いや、白斗君の家、遠いじゃん。ワタシ、戸乃学園受かったら行くからね。」


 ワタシがそう言うと白斗君は満面の笑顔で、


「そう、良かった。」


 そして、


「菜穂、じゃあな!!」


「うん! じゃあね! 白斗君!」


 ~~~~(回想終わり)~~~~


 そう言って、白斗君と別れたんだ。ワタシと白斗君って恋人同士になったのかな……。あんまり実感ないな。ワタシはぼんやりとそんな事を考えていた。


 すると、


「菜穂ー」


1階でお母さんの声がする。


「なあにー?」


「菜穂に電話ー、白木君って言ってたわよ」


 白斗君だ!! ワタシは猛スピードで階段を駈け降りた。


「もしもし。」


「あっ、菜穂。ちゃんと家に着いたみたいだね。こっちも着いたよ。」


 菜穂。白斗君、楓って呼ばなくなってる。


「そうなんだ。わざわざ電話くれてありがとう。」


「これくらい当然さ。あんまり迷惑にならない時間にまた電話するね。」


「あっ、待って!!」


「ん? なんだい?」


「ワタシたちって恋人なんだよね?」


「そうだよ!!  恋人だよ!!」


 そうなんだ……夢ではなかったんだ……。


「もしもし、菜穂?」


「あっ、ごめん。白斗君。」


「うん、遅くなってもいけないし、もう切るね!」


「わかった。じゃあおやすみ、白斗君!」


「おやすみ、菜穂。」


 ガチャン!! 電話は切れてしまった。


 夢ではない!! 電話により、実感が沸々と湧いてくる。


 白斗君がワタシの恋人……嬉しい!!


 ワタシは興奮で訳もわからず、ベッドの上でごろごろする。


「神様、どうか無事に戸乃学園に受かりますように……。お願いします!!」


 何もない天井に向かって、ワタシはお祈りをした。


「しまった……せっかく神社に居たんだからお祈りしとけば良かった……。」


 今更、神社でお祈りをしておかなかったことを後悔する。


 でも……。ワタシが、白斗君の恋人かぁ……。思えば、白斗君に最初に告白されてから恋人に至るまでに、ワタシにも色んな葛藤があった。それは、ツラく苦しいものが多かった。しかし今、ワタシは幸せだ。


 白斗君は、いつもワタシに色々なものを渡してくれる。そもそも、ワタシが意固地になっていたのが原因だったと、今ごろ気付いた。白斗君、ワタシも白斗君にいろいろ出来るようになるからね!!そうワタシは、何もない天井に誓ったのだった。


 そういえばふと、思った。


 そうだ!! 白斗君、ワタシのことを楓から菜穂に変えてたし、恋人同士になったんだから、ワタシも白斗君の呼び名、変えてみようかなぁ……。恋人同士だし、特別な呼び名で呼んでもおかしくないよね?


 白斗……うーん、呼び捨てってなんか抵抗あるな。

 白ちゃん……なんか馴れ馴れし過ぎる。

 白……呼びやすいけど、愛犬呼んでるみたい。

 はっ君……なんかだめだ。


 ……………………。


 いろいろ考えてみたが、結局しっくりくるのが思いつかなかった。白斗君はきっと、ワタシと付き合ったら呼び名を変えようと思っていたのだろう。ワタシは楓と呼ばれるよりも、菜穂と呼ばれるほうが良かった。ワタシは、今はまだ、白斗君はやっぱり、白斗君のままが一番呼びやすいや。白斗君といつまでも、仲良く付き合えますように……。


 そう思いながら、ワタシは眠りに就いた。



 ◇◇◇



 戸乃学園高校の合格発表には、白斗君と一緒に見に行った。これでワタシか白斗君、どちらかが落ちていればお笑いだったが、幸い二人とも受かっていた。


「良かった。菜穂も俺も受かってる。」


「良かったー、ワタシ、ちょっと心配だったんだ。」


「ははっ!! これで、同じ学校に行ける。俺、すっげえ嬉しい!!」


「ふふふ。ワタシも!!」


「菜穂がそう言ってくれるのも嬉しい!!」


 戸乃学園高校に確実に進学出来るように、第一志望にしていた女子高は白紙で出した。白斗君の方も、戸乃学園高校に進学出来ると電話があった。

 そして……、


「なんだよ、菜穂、お前、戸乃学に進学するの? 女子高は駄目だったんだ。」


「そうだよ。日向、高校でも宜しく!!」


「なんだかお前、女子高落ちたのに明るいな?」


「そうかな?」


 こうして、色々あった中学時代が幕を閉じた。ワタシと白斗君そして日向、三人とも戸乃学園で高校生活を迎える。

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