scene 12
ここが美術部……。
『美術部』
突き当たりの扉の外側に、ガムテープで四方が貼られたA3のコピー用紙があり、そこにはこう書かれていた。
「ココがそう?」
「そうみたいね……」
ワタシと三玲はそう二人で
「お前ら、入部希望?」
突然後ろから、男の人の声がした。それは、ウチのクラスの担任の先生だった。
「すみません、先生。見学に来ました」
白斗君は丁寧にお辞儀をして、先生にそう答えた。
「そうか、そうか。まぁ、入っていきな」
そう言うと先生は美術部の扉に鍵を挿し、開けた。
「今日はまだ誰も来てないんだよ。俺が来て、良かったな」
先生に促されて、中に入ったワタシたち。
「まぁ、適当に見てけや」
見ろと言われても……。と、ワタシは思ったがそこには、中学の頃とは比べものにならない位の様々な美術道具が置かれていた。
「凄い……」
「この部も昔は大人数で活動していたからな。部費も沢山有ったんだ」
先生が椅子に座って、何かの雑誌を読みながら言った。
「ということは、今は違うということですか?」
白斗君がそう尋ねた。
「あぁ、今この部に所属しているのはたったの3人だ」
「3人、ですか……」
「あぁ、そうだ」
「じゃあ、今日は誰も来て居ないから、部活動は休みなんですか?」
三玲が尋ねた。
「いや、今日はそろそろ来ると思うぞ」
先生は雑誌を閉じると時計を見ながらそう答えた。すると、美術部の扉がスッと開いた。
「先生、すみません。遅くなりました」
そう言って、お辞儀をして中に男子生徒が入って来た。
「おぉ、いつもながら仕事が早いな」
先生はそう言ってその生徒を
「おや、先生、横に居る方々は?」
男子生徒が、ワタシたちに気付いた。
「あぁ、ウチのクラスの生徒で、この部を見学に来たそうだぞ」
男子生徒がこちらを向き直した。あっ、この人は……。
「部長の
その生徒は爽やかに挨拶をした。
「見たことあると思うが、コイツはこの高校の生徒会長もやっている」
先生はそう付け加えた。
「後の部員はだな……」
先生が説明を始めようとすると、宝道先輩はそれを静止して、
「先生、僕の方から皆さんに説明します!!」
と言った。先生は、
「おぉ、そうか」
と言うとまた雑誌を読み始めた。
「皆さん、この部の部員数は僕も含め、3人だというのは聞きました?」
宝道先輩の質問に、ワタシたちは頷いた。
「三年は残念ながら、僕1人です。二年に男女それぞれ1人ずつ在籍しています」
先輩は部員名簿を取り出した。そこには、
「まず、金子さん。彼女は放送部を兼部しています。放送部を主としていますので、たまにしか来ません」
兼部か……なら仕方ないよね。
「次に黒森君、彼はバイトをしており、めったに顔を見せません」
バイト……めったに顔を見せない……。
「僕もなるべく顔を出すようにはしますが、生徒会の方も
えっ、それじゃ先輩、3人とも……。
「そういうこった。お前ら、入るならお前らで好きに活動しな」
雑誌を読んでいた先生がそう答えた。
「僕からも頼みます。部を守り立てて下さい」
宝道先輩からそう頼まれた。
「この教室の鍵は、俺に言ってくれたら開けてやる。道具は、何使ってもいいぞ」
相変わらず、雑誌を読みながら先生はそう言った。なんだかもう入部するのが決まってるみたい……。まぁ、入る予定ではあったけど。
「だって、どうする?」
ワタシは一応、三玲と白斗君に尋ねた。
「めちゃくちゃ楽しそう!! 菜穂、入ろう!!」
白斗君は楽しげにそう言った。
「そうね、私も入るわ。菜穂も入るでしょ?」
三玲はそう言って、ワタシに尋ね返した。
「うん、勿論!! ワタシも入る!!」
「皆さん、入部して頂けますか!! それでは、この用紙に名前をお書き下さいませ」
先輩は、何処からともなく入部届けを取り出した。ワタシたちは名前を記入し、入部が決まった。
「3人も入部して頂けて、部長として歓迎しますよ!!」
宝道先輩は、爽やかな笑顔でそう言った。
「そういやお前ら、聞くところによると、中学でも活躍してたらしいじゃねぇか。こりゃ、期待出来るねぇ」
先生はそう言ってワタシたちを煽り立てる。
「それはそれとして、本当にここにある美術道具、自由に使っていいんですか?」
白斗君は先生の煽りをさらりと流して、そう聞いた。
「あぁ、構わないぞ。宝道達の私物は、ちゃんと専用のロッカーが有るから。そこに置いてあるのは、全て学校の備品として扱ってるからな。お前らも私物は自分で管理しろよ。空いているロッカーは使って良いからな」
どこか引っ掛かる先生の説明だが、ワタシたちは一応納得した。
「僕が居る時は、指導しますね。それでは、さっそくですが皆さん、静物画は得意ですか?」
そう言うと宝道先輩はワタシたちに紙と鉛筆を渡してきた。
「ちょっと描いてみてもらえますか? 対象物はそうですね……あそこにある花瓶を描いてみましょうか?」
ワタシたちは宝道先輩の指示通りに花瓶を描いて見せた。
「おう、3人とも良いんじゃないか」
先生は適当な感じにそう言った。
「うーん……白木君は写実出来ていますが、小さく纏まっていてなんだか面白くありませんね。羽場本さんは構図のバランスが少し崩れていますね。楓さんは細部描写をもっと丁寧にするとより良く見えると思いますよ」
宝道先輩はワタシたちの絵を暫く眺めた後、そうアドバイスした。
「僕が居る時は、課題を出してそれに取り組んでもらおうと思います。居ない時は何をしていただいても構いませんが、活動記録というのをつけていただきたいので宜しくお願いします。金子さんや黒森くんが来た時はその指示に従って下さい」
「「「わかりました」」」
「それでは、今日はもう一度同じように花瓶の静物画を描いて終わりにしましょうか」
「「「お疲れ様でした」」」
「黒森と金子には、明日にでも呼び出してお前らが入部したことを伝えとくわ」
「先生、宜しくお願いします」
「取り敢えず、俺から指導することは一切ないから、覚悟しとけ」
……取り敢えず、顧問が凄くゆるい部だということは理解出来た。顧問の先生は美術のことは頼りなさそうだけど、宝道先輩は生徒会長もしているし、しっかりしてそう。他の2人の先輩達のことはわからないが、楽しく活動出来たら良いな。
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