scene 13
部の先輩たち①
入学してから二週間が経った。高校生活も白斗君、三玲、が同じクラスのおかげで大分慣れてきた。三玲に負い目を感じていた白斗君との会話も次第に薄れてきた。白斗君は高校生になってからも相変わらず優しい。
毎日が楽しかった。部活動も宝道先輩が居ない時は、色々考えてワタシたちなりに活動した。宝道先輩が居る時は、ひたすら静物画のデッサンを行った。宝道先輩曰く、「静物画は最も簡単なようで最も難しく、面白い」そうだ。一度、宝道先輩がお手本を描いてみせてくれたが、本当に絵かと見紛うくらいの写実だった。
金子先輩は入部した2日後、顔を見せた。
「おっ、新入生諸君、やってるねぇ~!!」
金子先輩は女版日向のような性格で、話しやすかった。金子先輩、部では主に水彩画を描いているようだ。金子先輩は配色技術が凄かった。宝道先輩の静物画に金子先輩が色を塗ったら、カラー写真にしか見えなかった。
「フフン、アタシの絵も中々のもんでしょ!!」
「はい、きれいな配色ですねー」
ワタシは素直に感想を言った。
「黒森には会った?」
「いえ、まだです」
「アイツ、性格に難有りだけど、アイツもそれなりに凄いよ」
どうやら、黒森先輩も凄いらしい。しかし、二週間経った今でも黒森先輩には未だに出会っていない。その日の帰り道……。いつものように、ワタシは白斗君と一緒に帰っていた。
「……でね、お母さんにその話したら、『スゴいね』なんて言っちゃってて……」
「菜穂」
急に白斗君が真剣な顔をしてワタシを呼んだ。
「なあに……白斗君?」
ワタシは先ほどまで話していた話をやめ、静かに白斗君に尋ねた。白斗君は真面目な顔でしっかりと私の目を見てこう言った。
「母親が倒れた。明日から暫くは部活動に行ったり、一緒に帰ったり出来ない」
「えっ……」
今日もいつもと変わらない笑顔でいた白斗君。全然、わからなかった……。
「今日は大丈夫なの?」
「今日は父親が休み取って付き添ってるから大丈夫。明日からは仕事に戻るから……」
「そっか……」
ワタシはそれ以上は言葉が浮かばなかった。
「部長には休む旨話したし、羽場本さんには菜穂から部活中にでも伝えて欲しい」
「わかった」
「暗くさせてしまってごめんな……」
白斗君は申し訳なさそうにそう言った。
「ううん、教えてくれてありがとう。白斗君、辛いのに……。高校には来るの?」
ワタシはいつもの感じで白斗君に尋ねた。
「あぁ、高校の授業は普通に受けるよ」
「なら、全然平気だよ。お母さん、早く良くなるといいね」
「あぁ……」
白斗君のその暗い一言に、軽い病気ではないことをワタシは悟った。ワタシはその後、いつもの様に白斗君に話し掛けずに無言で歩いた。白斗君はそれ以上のことは話さず、黙って少しうつむき加減になったり、空を見上げたりしながら、ワタシの方を向こうとはしなかった。別れ際に白斗君は、どこかもの寂しげに、「じゃあな」と言った。ワタシは「じゃあね」と応えて少し歩いた後、振り返り白斗君の後ろ姿を暫く眺めていた。
次の日……。白斗君は学校を休んだ。高校は休まないと言ってたのに……。そんなにお母さんの具合が悪いの?ネガティブな考えばかりが頭を過る。
「あら、白斗君、今日は休みなんだ。菜穂、寂しいわね」
三玲がそうワタシを茶化す。
「そうね……」
ワタシは気のない返事を返した。
「あー、菜穂。図星だった? 茶化したりしてごめんなさい」
三玲は、申し訳なさそうに謝ってきた。
「あ、いや。大丈夫、大丈夫。只、白斗君が心配なだけ」
ワタシはハッとして、三玲にそう答えた。
「そっか、それならいいけど。明日は来ると良いね!!」
三玲は、ワタシを元気付けるように言った。
「うん」
ワタシは、いつものように返事を返した。あぁ、三玲にどう伝えよう……。ワタシはどう伝えるか考えるうちに、放課後になった。
「菜穂、部活行くよ」
三玲の呼ぶ声だ。
「今行く。ちょっと待ってて」
部活までの道中に伝えよう。ワタシは帰り支度をしながら、そう決めた。
「……でさ、隣の席の田中君が……」
「うん」
喋る機会がないよ……。
そうこうするうちに、部室に着いてしまった。
「失礼します」
三玲は勢いよく扉を開けたが、誰も来ていなかった。
「あれ? 鍵は開いてるのに何で?」
「そうだね……」
三玲もワタシも、不思議に思いながら部室に入った。
「おい!!!!!!」
「ひっ!?」
「ひゃぁ!!」
ワタシと三玲は驚いて、そんな声を出した。
「お前らが、新入部員か!!」
荒っぽい口調で、ワタシたちにその人はそう問い掛けた。
「「はい……そうです……」」
ワタシと三玲は萎縮して、か細い声で揃ってそう言った。
「うん!? ナニを脅えている? 俺は黒森だ!! お前ら、名前は?」
その人は、黒森先輩だった。
「楓です……」
「羽場本です……」
ワタシたちは、ワタシから順に自己紹介した。
「そうか、そうか!! そんなに脅えなくていい!! 生まれつき、こんな口調だ!!」
黒森先輩は大きな声でそう言った。この人が黒森先輩……。うぅ……顔つきも口調も恐いよ。
「今日はお前ら二人だけか!! もう一人、男が入ったと聞いたんだが!!」
「あっ、白斗君なら……」
「彼ならしばらくお休みだよ。久しぶりだね。黒森君」
ワタシが説明しようとすると、扉を開けて宝道先輩がやって来て黒森先輩にそう言った。
「あっ、真さん!! 久しぶりです!!」
黒森先輩は、宝道先輩の方を向いて軽く会釈した。
「今日はバイトはお休みかい?」
「はい、そうです!!」
親しげに話す二人に、ワタシは少し安心感を感じた。
「えっと、楓と羽場本だっけ?」
黒森先輩はワタシたちの方を向き直り、尋ねた。
「「はい、そうです。」」
ワタシと三玲はまだ少し緊張気味に答えた。
「もう一度改めて自己紹介するな!! 俺は黒森 怜理だ!! 得意分野は版画や切り絵だ!!」
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