部の先輩たち②
そう言った後、黒森先輩は不意にポケットからハサミと折り紙を取り出した。
「楓、何でもいいから言ってみな!!」
「えっ、えっと……じゃあライオン」
「ライオンな!! よしっ!!」
黒森先輩はそう言うと、下書きもせずにハサミを使って折り紙を切っていく。ものの数分もすると、立派な
「はい、どうぞ!!」
「おぉ。凄いですね!!」
「俺、たまにバイトで舞台でショーをする時があるんだが、子供にこのパフォーマンス見せると結構ウケるんだわ!!」
そう言って、黒森先輩はニカっと笑った。
「黒森君、器用でしょう。中学の頃からこうでした」
黒森先輩の横に立ち、宝道先輩がそう言った。
「真さん!! 真さんの静物画の緻密さには及ばないです!!」
話から察するに、宝道先輩と黒森先輩は高校より前から先輩と後輩の関係だったようだ。だから、黒森先輩がバイトで休んでばかりでも、何も言わないのか。宝道先輩と黒森先輩の会話を聞きながら、ワタシはそう解釈した。
「さて、今日は黒森君も来ているし、木版画をしましょう」
「真さん!! なんかすみません!!」
「いえいえ。道具はここにあるので、各人好きなものを使って作業に取り掛かって下さい。2週間後を完成期限とします」
「お前ら、木版画やったことあるか?」
黒森先輩がワタシたちにそう聞いてきた。
「少しは……平らな木の板の上に絵を下書きして、木を彫刻刀で削っていくんですよね?」
三玲が答えた。
「そうだな!! その後色付けして紙に刷れば完成だ!! 俺は下書きせずに削るけどな!!」
黒森先輩はそう言うと切り込み刀を取ってきた。
「黒森先輩、もうやり始めるんですか?」
わたしがそう聞いた。
「俺、そんなに部活動にも来れないしな!! この方が性に合ってんだ!!」
黒森先輩はそう言って、鼻歌を唄いながら、切り込みを入れ始めた。
「黒森君は特殊だから、真似しない方が良いですよ」
宝道先輩がワタシたちにそう言った。
「真似したくても出来ませんよ……」
三玲が黒森先輩を見ながら、そう言った。
「ははは、そうですね!! 慣れない作業だと思います。怪我には十分に気を付けて下さいね」
「「はい、わかりました!!」」
ワタシたちはそう返事をした。
「そういえば、菜穂。宝道先輩が白斗君しばらく休むと言ってたけど何で? 今日休みなのと関係あるの? 知ってる?」
三玲が思い出したように、ワタシにそう質問してきた。今答えるのか……、嫌だなあ……。ワタシはそう思いながらも口を開いた。
「家庭の事情だよ。ちょっと白斗君のお母さんの具合が悪いみたい……」
ワタシは少し内容を軽めに解釈して、三玲に話した。
「えっ!? そうなの!?」
「うん……」
「それで朝、菜穂も元気なかったの……」
三玲は驚いた後、小声でそう言った。
「そうなんだよね……。白斗君、学校には来るって言ってたんだけどね……」
「そう……」
三玲が、それ以上訊いてくることはなかった。やっぱり、三玲も落ち込むよね……。ワタシは、想像していた通りの三玲の反応に対して、申し訳なく思った。
お見舞いとか、行っても良いのかなぁ……うーん……。
ワタシは下書きの絵を考えつつも、白斗君のことばかりを考えていた。
部活動終了後。
何時もなら隣に居る白斗君は、今日は居ない……。三玲と一緒に帰りたかったが、三玲は絶賛片思い中のサッカー部の先輩を眺めに行ってしまった。
「はぁ……」
独りで帰る道は、心なしか何時もより暗く感じた。考え過ぎてもどうにもならないのに、家路に着くまでの間も、白斗君のことばかり頭を巡った。
プルルルル、プルルルル、……。白斗君、居るかなぁ?
ワタシは悩みに悩んだ末、白斗君の家に電話を掛けてみることにした。
プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、……。
呼び出し音がもう一分は続いただろうか、誰も出る気配はない。
居ないか……。そうだよね……。そう思って、電話を切ろうと受話器を離していると、
「もしもし……」
と電話の向こうから声が聞こえた。
ワタシは慌てて受話器を耳に当て、
「もしもし」
とだけ言った。
「もしもし……どなたですか?」
電話の主は、白斗君ではなかった。小学生くらいの子供の声だ。
「もしもし、すみません、ワタシは楓菜穂と言います。白木白斗君はいらっしゃいますか?」
「白斗? 白斗なら今居ないよ。お母さんのところ行ってる。じゃあね」
ガチャン。電話の主はそう言うと、電話は切れた。今のは、白斗君の……弟?
白斗君に弟がいたなんて知らなかった……。
ワタシは通話しなくなった受話器を持ったまま、しばらく呆然としていた。
そういえばワタシ、まだ白斗君の家にさえ行ったことないんだった。ワタシと白斗君は、休みの日はお互いの家に電話を掛けて何時間も話をするだけだったので、白斗君の家族に会ったことがなかった。いつもは白斗君のお母さんが電話に出て、白斗君に繋いでくれるのだが、弟が出たことは一度もなかった。
今回、白斗君の弟が電話に出たことで白斗君に弟が居ることが知れて、不謹慎だが少しだけ嬉しくなった。もし可能なら、今すぐにでも白斗君の家に行きたいが明日も学校だ。
ワタシはもどかしいと思いながら、白斗君が明日は来てくれることを願いながら、布団に横たわった。
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