scene 14

ワタシと白斗君と日向と。

 ワタシは夢を見た。夢の中には、ワタシ、白斗君、それに日向が出てきた。夢の中のワタシたちは、まだ小学一年生くらいだろうか……。ワタシたち3人は砂場で遊んでいる……。日も暮れ始め、辺りが薄暗くなってきた……。


「白斗~、そろそろ帰るわよ~」


 白斗君のお母さんだろうか。若い女の人が遠くから呼ぶ声がした。


「わかった、今行く。じゃあな、菜穂、日向!!」


 小さな白斗君はその夢の中で笑顔で「じゃあな」と言って、若い女の人の所に駆けて行った。


「待って!! 白斗君!!」


 気付いたら、ワタシは真夜中に目が覚めていた。別になんてことのない夢。登場人物が違えば、微笑ましいとか思うのだろう。だけど、ワタシには何かを暗示しているようにしか思えなかった。起きたワタシは心臓のばくばくがしばらく治まらなかった。



 その日、白斗君はいつもと変わらない様子で学校に登校していた。


「菜穂、おはよう!!」


「白斗君、おはよう!!」


 いつもと変わらない白斗君だった。だから、ワタシもいつもと同じ様に振る舞った。


「昨日、俺の家に電話掛けてくれたんだね。出れなくてごめん」


「いいよ。電話に出てきたのって、白斗君の弟さん?」


「あぁ、そうなんだ。綾斗あやとって言うんだ。」


「綾斗君……」


「あいつ、菜穂になんか変なこと言わなかった?」


「大丈夫だよ。綾斗君、小学生?」


「あぁ、小学4年。6歳離れてる」


 6歳も離れてるんだ。ワタシは一人っ子だから、兄弟のことはよくわからない。でも、優しくて面倒見が良いのは長男だからかなぁ、なんて思った。


「白斗君、さすが長男っぽい」


「そうかな……」


 白斗君はそうでもないよと言いたげにそう言った。


「今度、綾斗君にも会って見たいな」


「あぁ、そのうち家に招待するよ!! 楽しみにしてて!!」


 白斗君は明るくそう言った。お母さん、病状落ち着いたのかなぁ? ワタシは白斗君と話しながら、そんなことを思った。


「しばらく、部活動には参加できないんだよね……?」


 答えはわかっているが、ワタシは一応訊いてみた。


「あぁ、ごめん……」


 あぁ……雰囲気を暗くさせてしまった。明るい話題に変えないと……。何か話題は……あっ、そうだ!!


「そういえば、白斗君の居ない間に黒森先輩が来たよ!!」


 ワタシは黒森先輩に会ったことを話題にした。


「あ、会ったんだ。どんな人だった?」


「んーと……豪快な感じの人だったよ!! でも、切り絵がとっても上手だったよ!!」


「へー、豪快なのに繊細なんだ。俺も早く会ってみたいな。」


「他にもね……」


 その後、しばらく黒森先輩の話で盛り上がった。



 キーンコーンカーンコーン


 終業のチャイムが鳴った。


「では今日はここまで。お前らしっかり復習しとけよ!! 明日、テストするからな!!」


 授業担任はそう言って教室を後にする。


 放課後だ。


 授業という鎖から解き放たれたクラスメイト達はそれぞれ思い思いの動きを始める。ワタシも教科書をカバンに詰めて、帰り支度を始めた。


「菜穂」


 声がした。白斗君だ。


「それじゃお先に。部活頑張ってな」


 白斗君は既に帰り支度を済ませていて、ワタシにそう声をかけた。


「うん。じゃあね」


 白斗君はワタシのその言葉を聞き終えると、急ぎ足で教室を出ていった。白斗君、家に帰ってやることいっぱいあるんだろうなぁ……綾斗君の為に料理したりするんだろうか……。ワタシは支度を進めながら、そんなことを思った。


「菜穂」


 声がした。三玲だ。


「部活行くよ」


「わかった。後ちょっと待って」


 こうやって、白斗君と比べていつもと変わらない日々を送れワタシは幸せだ。


「おっす、菜穂」


 その日の部活帰り、たまたまはや上がりだった日向に肩を叩かれた。


「あぁ、日向。お疲れ様」


「最近どーよ? 何か変わった?」


「別に」


 あっけらかんとして質問してくる日向にワタシは素っ気なくそう答えた。


「相変わらず、ってとこか」


「まーね」


 たわいもない会話を始めるワタシと日向。その途中、


「てかさ、お前って白斗と付き合ってる?」


「えっ?」


日向の不意のその質問に、ワタシは少し動揺してしまった。動揺するワタシを見て、


「ははっ、そーなんだ」


にやけた顔でワタシを見る日向。


「そ、そうよ。別に良いでしょ」


 ワタシは日向に知られたことに少し恥ずかしさを覚えながら、そう答えた。


「別にいいけど。何で、白斗も菜穂も教えてくれないんだ」


 日向はそう言って、少し寂しそうな顔をした。ワタシはそう言われ、少し胸が痛んだ。ワタシにとっても白斗君にとっても、最も親しいはずの存在の日向。だからこそ、ワタシたちには後ろめたさがあったんだと思う。でも、伝えないことで日向を傷つけた。


「ごめん……」


 ワタシの口からは自然とその言葉が出ていた。


「何謝ってんだよ……。別にいいけど、って言っただろ」


 日向は少しムッとした口調で言った。


「でも……」


「でも……何?」


 ハァーと大きなため息を吐いて、日向はそう言った。


「あ、いや……。伝えてなくて、悪かったです。何か言いづらくて……」


 ワタシは伏せ目気味に日向に言った。


「悪いと思うなら、直接伝えてくれよな!! 又聞きとか嫌だから!!」


 日向は苛立ちながらそう言った。


「はい……」


「はい、じゃあこの話は終わり。菜穂、白斗との惚気話聞かせろ!!」


 日向がまたにやけて、ワタシに話をそう振ってきた。


「…………」


 ワタシは無言で、日向の向こうずねを蹴った。


「ってーーーー!! なにするんだよ!!」


 日向は蹴られた向こうずねを押さえながら、そう言った。


「知らない!!」


 ワタシは痛がっている日向を放っておいて、すたすたと歩き出した。


「おい、菜穂!! 悪かった!! 待てってば!!」


 日向は、ワタシを追いかけて走ってきた。


「茶化して悪かったよ……。今日はもう聞かないから」


「今日は?」


「そんな恐い顔するなよ。あぁ、今日は、な。お前が教えてくれなくても白斗に聞くし!!」


「ハァー、わかりました。」


 そんな話をしながら、ワタシは日向と一緒に帰った。日向と久しぶりに、こんなに話した気がする。



 帰宅後、ワタシは制服を脱ぎながら、そう考えていた。そういや、クラスが別々になったの初めてだった。小学校、中学校の頃はいつも同じクラスだったので、そんなこと考えたこともなかった。やっぱり、日向と話すのも楽しい。


 白斗君と付き合うようになり、クラスも同じで寂しいと感じることはなかったが、もしクラスで知り合いが一人も居なかったら、寂しいことになっていたことだろう。


 あーあ……日向も一緒だったらもっと楽しいのに……。つい、起こり得ないであろう願望が湧いてくる。ワタシって、どこまでも贅沢者だよなぁ……。ワタシは、この幸せがいつまでも続くと思っていた。

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