scene 17

白斗君が言いたかったこと。①

 ワタシは帰り道も、どうすれば良いか、頭が痛くなるくらい悩んだ。そしてたどり着いた答えは、“白斗君に電話する”だった。


 明日、直接会って話すのは少し喋りにくいし、かといって、話さなければ、白斗くんの方からメモの話を切り出されるかも知れない。電話なら、カンペを作って持っていてもバレないし、いざとなったら切ってしまえばよい。何より、電話の方が面と向かってよりワタシがワタシの気持ちを伝えやすい。ポケベルを鳴らせば、白斗君に確実に出てもらうことが出来る。


 ワタシにとって、メリットのある方法はこれしか思い付かなかった。


 そして、白斗君の問いかけに対するワタシの気持ちは決まっている。答えは“NO”だ。


 白斗君のことは好きだが、いきなり寝食を共にする勇気はないし、親が許すはずがない。白斗君にもお父さんが居るし、高校生活もある。同じ高校の誰かにバレたら、確実に好奇の目で見られる。どう考えてもデメリットばかりで、メリットがない。だからワタシは、この答えに持っていけるように、白斗君のどんな言葉にも対応出来るように、思い付く限りの返答カンペを作った。


 よし、これなら!!


 そして、意を決してワタシは白斗君宛にポケベルを鳴らした。しばらく経つと、ワタシの家の電話が鳴った。おそらく、白斗君だろう。ワタシはそう思ったが、電話を取りには行かなかった。万が一、白斗君でなかった場合、せっかく作っていた気持ちの糸が途切れてしまうからだ。少しすると、電話の音が鳴り止み母親の話し声が聞こえた。そして、


「菜穂ー、電話ー、白木君からー」


母親がそう言ってワタシを呼んだ。


「はーい、今行くー」


 いよいよだ……白斗君のペースには呑まれないぞ!!


「もしもし」


「菜穂、こんばんは」


 いつもの、白斗君の声だ。


「白斗君、メモ読んだよ……」


 ワタシは、直ぐにメモの話を切り出した。


「あぁ、読んでくれたんだ。じゃあ、もう一度俺の口から言うね。菜穂、俺と一緒に暮らさないか?」


 あぁ、白斗君……。


「……ごめん、今はまだ……無理」


 少し溜めてから、ワタシはそう言った。白斗君、どんな言葉でもワタシは揺らがないよ。ワタシは、白斗君の言葉を待った。


「……そういうと思ったよ。菜穂、何故俺がこんなこと言ったか分かる?」


 白斗君はやんわりとそう質問した。


「白斗君がワタシと少しでも、長く居たいから?」


 ワタシは白斗君にそう言った。白斗君は、


「ん、正解」


そう言った後、ゆっくりとこう続けた。


「じゃあ、何で少しでも長く居たいか分かる?」


「……ワタシのことが凄く好きだから?」


ワタシは照れながら、そう答えた。


「正解」


 白斗君はそう言った。そして、


「じゃあ、菜穂は俺のこと好き?」


こう質問した。


「もちろん、大好きだよ!!」


 ワタシは恥ずかしがりながらも答えた。


 何? 白斗君、ワタシと一緒に暮らそうと言ったのと離れていってない?


「じゃあ……」


「ちょっと待って!! 白斗君……」


「うん? どうしたの?」


 しまった……。


 ワタシは、言った後に気づいた。


 自分で止めておいて、その次の言葉が言えないことに……。


「ごめんなさい。お母さんが早くお風呂に入りなさいって言ってる。白斗君、一旦電話切っていい?」


 ワタシはとっさにそう切り出し、時間を稼ぐことにした。


「ああ、いいよ入っておいで。お風呂から出たらまたポケベル鳴らして教えてよ」


「わかった」


 ガチャン



「ふー」


 ワタシはお風呂に浸かりながら、白斗君のことを考えていた。


 白斗君はどうして、急にあんなことを言い出したのか?


 よくよく考えて見ると、白斗君はお母さんを夏に亡くしている。


 白斗君は大事な人、つまりワタシと少しでも一緒に居られる時間を持ちたいということだろう。


 そう考えると、白斗君の訴えも理解できる。


 とすると、ワタシのすべきことは、白斗君のその不安を取り除く提案をすれば良いのだ。


 でも、確かにいつ誰に何が起こるかはわからないよなぁ……。


 白斗君の思いはわかったものの、お互いにとって良い方向に進んでいけるアイディアが思い浮かばない。


 かといって、白斗君の訴えに応えるのは、なかなか難しい。


 考えた末、ワタシは白斗君にこう言うことにした。


 “一緒にはまだ暮らせないけど、休みの日は白斗君の家で一緒に居たい!!”


 これなら、元々ワタシもしたかったことだし、白斗君と毎日顔を合わすので、暮らす程にはないにせよ、少しは白斗君の不安も取り除けるのではないかな……。


 そう思いながら、ワタシは再びポケベルを鳴らした。

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