白斗君?②

「日向!! やっぱりこれ、日向が描いたんだ。」


 ワタシは納得といった表情で日向を見た。


「菜穂。くれぐれも色塗り失敗しないでくれよ」


「そんなことしないわよ!!」


 ワタシは日向のその言葉に少しムカッとしながら作業に取り掛かった。



「よし、出来た!!」


 一時間程でワタシは頼まれた箇所を塗り終えた。


「わぁ、ありがとう!! さすが、美術部ね!!」


 班長がワタシの塗った箇所を見て、そう褒めてくれた。ワタシは他の箇所も手伝う必要があるか訊いてみた。


「それじゃ、この龍の髭の部分お願い出来る?」


 原画で太く大きく立派に描かれている髭は、日向が強調したいのだと感じた。


「菜穂。その箇所、特に大事だからな」


「わかってる!!」


 ワタシは慎重に、そして丁寧に髭を描いた。


「どう、日向?」


「うーん、まぁまぁ」


「誉め言葉と捉えておくわ」


「楓さん、今日はどうもありがとう。助かったわ!! これで間に合いそう。これ」


 班長はそう言って、お礼にと冷たいモナカアイスを手渡された。


「班長、俺の分は?」


「綿原君はなし!!」


「ちぇっ……自分で買ってくるよ」


 日向はそう言うとカバンから財布を取りだし、それをポケットに入れ、教室を出ていこうとした。


「あっ、待って日向!! ワタシも付いてく!!」


 ワタシは日向を呼び止め、後に付いていった。


「なんだよ、お前アイスが足りないのか!?」


 追いかけるワタシに日向はそう言った。


「そんなわけないでしょ!! ちょっと相談に乗って欲しいことがあるの……」


「菜穂が相談? 珍しいな……。どうせ、白斗のことだろ?」


「その通りだけど……。」


 日向にズバリと当てられ、少しワタシは戸惑った。


「俺なんかが相談に乗ったって解決しないと思うぜ」


「えっ!?」


 意外な返答が日向から返ってきた。


「だってそうだろ? 俺、最近のお前らの仲なんか詳しくないもん」


 ワタシは驚いた。てっきり親身になって、相談に乗ってくれると思ったからだ。


「俺より羽場本に相談に乗ってもらえよ。クラス一緒だし、部活も一緒だし、仲良いだろ」


「三玲はダメ。余計な心配させちゃう!!」


「じゃあ、自分で考えろ!! 俺に頼るな!!」


「なんで!? なんでそんなに冷たいの?」


「知らん!! とにかく俺は相談には乗らねーから!!」


 そう言って、日向はワタシを置いて駆け出していた。


 日向、なんでよ……。


 取り残されたワタシの心の中は、日向に対する失望感で埋め尽くされていった。


 もう日向、相談にくらい乗ってよ……。


 ワタシは哀しみと苛立ちを抱え、部室に向かっていた。日向に頼れなくなった今、ワタシが頼れるのは三玲くらいしかいない。三玲とはクラスも部活も一緒だからこそ、なかなか話しづらい。だが、ワタシは三玲に相談することにした。


 三玲はワタシの付き添いで居た後に、すぐに部室に向かっていた。今のワタシにとって、三玲は日向以上に頼れる存在だ。


 あっ、そういえば……。


 白斗くんから貰ったメモの紙をポケットに入れたままにしていた。


 とっさに三玲に見られまいと隠したそれはくしゃくしゃになっていた。


 何書いてるんだろ……。


 ワタシは部室に向かいながら、メモの書かれた紙を広げて見た。


 そこには一言、こう書かれていた。


 “俺と暮らさないか?”


「えっ!?」


 そのメモを読み、ワタシは思わず声が出てしまった。


 白斗君、何考えてるの!?


 ワタシは予想外の文面に仰天した。


 いきなりどうして!? ワタシたち、まだ高校生だよ!? 白斗君の親は許したの!? どこに住むの!?


 同時にワタシの頭の中には、様々な疑問が浮かんできた。


 白斗君はワタシがこうなることを予想して、メモにして渡したのだろう。


 心臓が激しく高鳴る。


 ワタシの親、絶対許してくれないよ!? まだ早すぎるよ!?


 ワタシは心の中で、白斗君のメモが書かれた紙に向かって、そんなことを叫んでいた。


 ワタシは程無く、美術部に着いた。


「あ、来た来た!! 菜穂、お疲れ様」


 三玲がねぎらいの言葉をワタシに投げ掛ける。


「青龍の飾り絵、完成しそう?」


「うん」


「あれ?  菜穂、ちょっと顔色すぐれないみたいだけど、大丈夫?」


「えっ、あぁ大丈夫。少し作業して、疲れたのかなぁ……」


 本当は作業ではあまり疲れなかったのだが、ワタシはそう言った。


「そうなんだ。あそこでしばらく休んでおいで」


「うん」


 結局、ワタシは三玲には白斗君のことは相談しなかった。ちょっと、さっき見たメモの内容が飛躍し過ぎて、ワタシが三玲に話したかった内容が吹き飛んでしまったからだ。流石に、この内容を三玲に相談するわけにはいかない。ワタシはそう思った。休んでいる間、白斗君の真意を考えることで頭がいっぱいだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る