scene 16

白斗君?①

 まだまだ暑い夏休みまっただ中のその日、白斗君のお母さんが亡くなった。白斗君から電話があり、葬儀にはワタシも呼ばれた。この時、ワタシは初めて白斗君の家を訪れた。白斗君は泣くのを堪えている弟の綾斗君の横で、じっと棺を見つめていた。顔には出さないが白斗君も相当ツラいだろうと思って、ワタシが泣いてしまった。ワタシは白斗君に見られまいと顔をふせて、白斗くんたちが出ていくのを見送った。近くの公園から聞こえる蝉の声が、やけに五月蝿く響いていた。


 白斗君のお母さんが亡くなって以来、夏休み中、ワタシは白斗君に連絡することが出来なかった。逆に白斗君から連絡が来ることもなかった。ワタシは寂しくないといえば嘘になるが、白斗君の気持ちを考えるとどうすることも出来なかった。凄く楽しみだったはずの夏休みは、全然楽しむことが出来なかった。ただ、部活動だけは一生懸命に活動した。中学生の時のように、何かに熱中することで、気持ちを紛らわせていたのかもしれない。ワタシは、どんな顔をして白斗君に会ったらよいかわからないまま、二学期を迎えようとしていた。


 二学期が始まった……。ワタシのクラスは夏休み前と変わらない、いつもの状態だった。夏休み中だったこともあり、白斗君のお母さんが亡くなったことは、同じクラスの皆でさえ知らなかったのだ。ワタシが登校した時、白斗君は既に自分の席に座っていた。


「おはよう、白斗君!!」


 意を決して、ワタシは白斗君に声を掛けた。


「あぁ、菜穂。おはよう」


 いつもの白斗君? いや、違う。白斗君は、前のようにワタシの方を向いて笑いかけて話し掛けてくることはなかった。席に座って、何かの自己啓発書? のような本を熱心に読んでおり、それに目線を向けたまま、顔を一切合わせてはくれなかった。


「ねぇ、菜穂。白斗君と喧嘩した?」


 休み時間になってもワタシに話し掛けて来ることのない白斗君をみて、三玲がそう声を掛けてきた。


「いや、喧嘩した訳じゃないけど……」


「ふーん。じゃ、私と話そうか。体育祭の準備だけど、今日の放課後もやるって。青龍の組の飾り絵の手伝いだって」


「わかった」


 ワタシたちの高校では、青龍、朱雀、玄武、白虎の4組に分かれて、競技を行う。ワタシたちのクラスは朱雀の組なのだが、青龍の飾り絵の準備が遅れている為、ワタシが手伝うことになったのだ。青龍といえば、日向のいるクラスも入っている。日向が居たら、ちょっと相談してみようかな……。


 放課後になった。ワタシは荷物をまとめていると、


「菜穂!!」


白斗君に呼ばれた。


「なあに?」


ワタシは直ぐに白斗君のもとに駆け寄ると、白斗君に強く手を握られた。えっ!?  何!? とワタシは戸惑っていると、白斗君は手を離した。


「それ読んどいて。じゃあな」


 白斗君はそういうとすぐに教室を出ていった。ワタシは手の中をみると、キレイに折り畳まれた一枚のメモ用紙が入っていた。なんだろう……。ワタシは恐る恐るそのメモ用紙を開こうとした。すると、


「菜穂!!」


今度は三玲に呼ばれた。ワタシは咄嗟にメモ用紙をポケットに入れ、三玲の方を向いた。


「何? 白斗君と仲直りしたの?」


三玲は真顔でそう質問する。


「いや、だから喧嘩してないって……」


ワタシは再度、三玲に喧嘩していないと訴える。


「ふーん、本当? まぁ、それでいいよ。それじゃ、青龍の飾り絵の手伝いに行くよ!!」


三玲はそういうと、教室の出口付近に向かった。


「わかった。待って!!」


 三玲に急かされて、ワタシは急いで支度し三玲を追いかけた。白斗君のメモは後で読もう……。そして、ワタシは三玲と一緒に青龍の組の飾り絵の場所に向かった。


 現場では、慌ただしく作業が行われていた。


「あっ、助っ人来てくれたよ!!」


 そこの班長らしき人がワタシと三玲を見つけ、そう皆に声を掛けた。


「どうも……」


「よろしく……」


 ワタシたちは遠慮気味にあいさつを済ませると、班長に連れられて、飾り絵の前にやってきた。


「貴女たちにはこの部分をやって貰いたいんだよね。これ、原画ね。」


 なるほど。そこにはドラゴンボールの神龍をモチーフにしたであろう絵が描かれていた。


「菜穂!! 俺が描いたんだぜ!! 傑作だろ!!」


 声がする方をみると、クラスの男子と一緒に絵の具を運んできた日向がそう言いながらやってきた。

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