scene 10

今一度、中学時代へ。①

 話は一度、中学時代に遡る。


 白斗君が学校を去ってから、1ヶ月半後……。ワタシは庫野町イメージキャラクターコンペで審査員特別賞を取った。それは学校でも表彰され、部活動で一時、ワタシは他の部員から注目を浴びた。


「楓さん、凄いね!!」


「楓さんも頑張ってたんだね!!」


「おめでとう!!」


 ワタシは同じ部員の人たちから、多くの称賛を受けた。


 そんな中で……、


「白斗君の受け売りで入賞しただけでしょ!」


 そんなことを言ってくる女子が居た。

 それは、部活内で特に白斗君と仲良くしていた女子。名前を羽場本 三玲はばもと みれいという。

 三玲とワタシは、小学校時代から知ってはいたが、ほとんど話したことはなかった。三玲は、小学校時代から白斗君に積極的に話し掛けていた。中学に入り、同じ部活動になったが、三玲は白斗君にばかり話し掛け、ワタシとはほとんど会話をしなかった。

 白斗君が去ってから、三玲はワタシが見ても明らかに判る程、落ち込んでいた。元々、ワタシは他の部員ともあまり話していなかったから、部屋の隅から皆を眺めていたのだが、三玲の落ち込みようはかなり酷かった。


 そんな中で、今回ワタシが取った審査員特別賞、三玲は白斗君がワタシをそのコンペに誘ったことを見ていたのだ。


「楓さん、白斗君からアイディア貰って描いたでしょ!!」


 そう言ってくる三玲。言いがかりも甚だしい。


「そんなことないよ!!」


 ワタシはそう言い返す。


「ウソおっしゃい!! 白斗君があなたが描いていたものに似ているものを描いていたのを、見たことあるんだから!!」


 それは多分、ワタシの描いていた絵の模写だ。白斗君は、ワタシのアイディアを褒めてくれていた。自分なら、どのように描けるか試したのだろう。でも、三玲に言っても信じてくれそうもない。

 仕方ない……。


「しょうがない、白状するわ。白斗君は、ワタシの絵の先生だったのよ。三玲さんが見た白斗君の絵は多分、ワタシが模写に使った絵だわ。だから、似ていて当然。でも、最優秀賞を取った白斗君の絵とワタシの絵は全然違っていたでしょ!! あれは、ワタシのアイディアを白斗君が絵におこして、それをワタシが模写したの!! アイディアだけは、正真正銘ワタシのオリジナルよ!!」


 すると、周りの部員がざわめき出す。


「なんだ、白斗君の力を借りたのか。」


「二次創作に近いな。」


「褒める程でもなかったか。」


「ほら、見なさい。やっぱり、白斗君の力があったのね。」


 三玲は勝ち誇ったようにそう言った。ワタシはそれ以上、何も言い返さなかった。



 ◇◇◇



 その日は、三玲からそれ以上何も言われることはなかった。本当は、白斗君の力なんてなかったのに。それが真実なのに。それを言っても多分信じて貰えないのが、悔しい……。ワタシは、悶々とそんな事を考えていた。


 そんなワタシを見た日向が近づいて来て、


「あれ、またなんか考え事してんの? 顔が死んだ様に暗いぞ!! ま、それはいつものことか。でも、イメージキャラクターコンペでこの俺に勝って審査員特別賞取った奴の顔じゃねえぞ。誰かになんか言われたか?」


なんて聞いてくる。日向になんて話せる内容じゃないよ……。


「日向には関係ない」


ワタシはそう言って会話を終わらせようとする。


「お前、機嫌悪い時いっつもそうだよな。はいはい、俺には関係ない事ですね。白斗との待遇の差よ。そういや、白斗の奴、お前に会いたがってたぞ」


「えっ!? 日向、白斗君と今でも繋がりあるの?」


「電話かかってきた。『楓、元気してる?』なんて言ってたから、お前がいなくて死にそうにしてると言っといたぞ」


日向がへらへらしながら、そう言ってきた。白斗君にワタシ、酷い振り方したのに。私の心はぐらぐらと揺れ動く。


「でも、お前もよく頑張ったよな。白斗も大絶賛してたぞ。まあ、白斗の方が凄かったけどな。おっと、部活動が始まる!! じゃあな!!」


残されたワタシはまた白斗君のことを考えていた。三玲にああやって言われるのも、全てはワタシの絵を描くレベルが伴っていないからだ。白斗君のようになれるとは思わない、でも、近づく!!


 その出来事が、ワタシをさらに絵の世界に没頭させた。

 今考えると、その出来事はワタシにとってある意味ではプラスだったかもしれない。他のことが気にならなくなったから。時々、白斗君のことを引き合いに出されて言われるときは、ちょっとドキッとしたが、

「白斗君は関係ない!!」

 としっかりと言えた。


 白斗君の手紙の中に、『楓の中学校生活のことが知りたい……』 と、書かれていた時は、白斗君がいないと苦しいよ……。と思ってしまう時もあったが、絵を描き始めると、それも忘れられた。


 ワタシにとって、その出来事はある意味ではマイナスだった。三玲によってワタシが模写したという話は拡がり、校内でも孤立してしまったから。元々友達の少なかったワタシだが、その出来事のせいでそれまで話し掛けてくれていた友人も話し掛けて来なくなった。日向だけは変わらず話し掛けてくれるが、ワタシはなんだかそれも申し訳ない気持ちになった。


 そのせいか、日向と話す時に

「お前、なんかさらに暗くなったな。」

と言われた。


「そんなことないよ。」

と明るく振る舞ってみたものの、

「顔が笑ってないぞ。」

と言われた。


 白斗君が居なくなって、ワタシは確かに性格が少し変わってしまったかも知れない。とにかく、良くも悪くもあの出来事からワタシは独りで絵に時間を傾けることが多くなった。表現技法、配色、構図などをしっかりとじっくり勉強した。デッサンやドローイングを必死になってひたすらこなした。休み時間や部活動中は許より、家に帰ってからも練習に励んだ。学校の勉強が疎かにならない様、授業中だけは授業に集中した。


そして……白斗君が去ってから1年も経つ頃には、ワタシの絵のレベルも上がり、絵画コンクールで入賞するようになった。

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