今一度、中学時代へ。②
部内では他にも絵の上手い部員はいた。三玲もその一人だ。三玲はその実力から、その頃には部長をやっていた。しかしワタシはいつの間にか、その絵の上手い部員や三玲よりも良い評価を受けるようになった。ワタシはそんなだから、三玲が更に悪態をついてくると思っていた。しかし、そんなことはなかった。
「楓さん、やるわね」
意外にも三玲はそう言ってくれた。三玲は素直にワタシの実力を認めてくれたのだ。ワタシは、三玲はワタシを嫌っていると思っていた。だから、ワタシが絵画コンクールで賞を取ることもよく思わないのではないか。部長だから、体裁を気にしているのだ。そう勘繰ってしまっていた。これがもし白斗君の言葉なら、ワタシは何の疑いもなく素直に受け止めるだろう。三玲は、それ以上は何も言わなかった。
心の中ではひどいこと思っているんじゃないの? その頃のワタシは、そう思っていた。今考えると、ワタシの方が三玲に対してひどいことを思っていたのかも知れない。
中学三年も二学期に差し掛かった頃、三玲がワタシに話し掛けてきた。
「楓さん、どこの高校に行くか決まった?」
ワタシはあまり答えたくないなと思いつつも、仕方なく答えた。
「第一志望は庫野町女子だよ」
すると、三玲はワタシにとって信じられないことを言ってきた。
「楓さんが庫野町女子行くなら、私も行こうかな!!」
ワタシは三玲がわからなかった。三玲はワタシのこと、嫌いではなかったのか?なぜ、そんな事を言うのか。三玲は続けてこう言った。
「庫野町女子でも、絵、続けるわよね?」
ワタシは続けるつもりだったが、
「わからない」
と、そう答えた。
三玲は、
「もったいないよ、楓さん。私、一緒に切磋琢磨出来る友達欲しかったんだ。お願い、友達になって!! そして、庫野町女子でも、絵、頑張って行こうよ!!」
言い掛かりの次は押し付けか……。
ワタシは
「イヤだ……」
と言った。
「三玲さんなら、ワタシ以外にたくさん友達いるでしょ。その人に頼んでよ。ワタシは友達になりたくない」
三玲は、驚いて少し考えた後、恐る恐るこう言った。
「白斗君の受け売りでしょ!! って言った時のこと、もしかしてまだ怒ってる……?」
「当たり前でしょ!! あのせいでワタシは孤立してしまったんだから!!」
ワタシは、怒りを露にして三玲にそう言った。三玲は申し訳なさそうな顔をして、
「ごめんなさい!!」
と頭を下げた。
「貴女が白斗君と仲良くしてるのを嫉妬して言ってしまったの……、本当にごめんなさい」
三玲は頭を下げたまま、そう言った。今さら遅いんだよ!! ワタシはそう言おうとしたが、白斗君の悲しげな顔が頭をよぎった。白斗君なら絶対にこんなことは言わない。もし白斗君がワタシなら三玲を許すだろう……。もし白斗君なら……、
「わかったよ、三玲さん。もういいよ。頭を上げて」
ワタシはそう言った。ワタシは白斗君ではない。でも、白斗君ならこう言うだろうなと思った。三玲はゆっくりと顔を上げて、
「楓さん、本当にごめんなさい……」
ワタシの顔を見てもう一度そう言った。三玲、ホントに悲しそう……。ワタシは今までの振る舞いを少し悔やんだ。
「三玲さん、ごめんなさい。友達になりましょう」
ワタシは三玲の顔を見てそう言った。すると三玲は悲しそうにしていた顔を笑顔に変えて、
「え、本当に!!」
と嬉しそうに言った。
「ええ……本当よ。宜しくね!!」
ワタシは少しぎこちなく笑顔を返した。ワタシと三玲は友達になった。
◇◇◇
「三玲、お待たせ」
「遅いわよ、菜穂」
それから、ワタシと三玲は急激に仲良くなった。休日には、二人で買い物に出掛けたり、映画を見に行ったり、カラオケをしに行ったりした。
「菜穂、高校生にもうすぐなるわね」
「そうだね。三玲と同じクラスに為れたら良いな!!」
「私も同じ!! 楽しみだね」
「絶対、受かろうね!!」
「うん!!」
そう、三玲とワタシはそんなことを話していたんだ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます