今一度、中学時代へ。③

 そんな高校受験を間近に控えたある日……。ワタシと三玲は中学最後に応募した絵画コンクールの結果が返ってきたんだ。


「やった!!」


 ワタシと三玲は揃って入賞していた。ワタシが嬉しがりながら三玲の方を見ると、三玲は別の所に目を向けていた。


「どうしたの?」


「ここ」


 見ると、そこには白斗君の名前が。


「白斗君、向こうでも絵、やってたんだね」


 そうワタシは言った。


「菜穂、名前じゃなくて、絵をよく見て」


 そう三玲が言ったので、ワタシは白斗君の絵を見る。


「えっ!?」


 その絵は、小学生の頃の“ワタシ”が絵を描いている絵に見えた。


「白斗君のこの絵、どう見ても、菜穂、貴女の絵に見えるでしょ」


「うん……」


 ワタシは驚いてその絵を見ていると、三玲が話し始めた。


「知ってると思うけど、私、白斗君のこと好きだったからよく話し掛けてた。秘密にしてたけどさ、私、引っ越した後も白斗君に会いに行ったことあるんだよね……。私、その時に白斗君に告白したんだ」


「えっ!?」


 ワタシは驚いた。三玲が白斗君に会ったことも、そして、告白したことも。


「白斗君、その時に言ったんだ。『俺は、楓のことが好きだから、羽場本さんとは付き合えない。』って」


「私、その時、貴女のこと心底恨んだよ。そして、あんなこと言ったのよ……」


 三玲の突然の告白に、ワタシはただ黙って聞いていることしか出来なかった。


「菜穂、ホントは私もわかってたよ。あれは貴女の作品だって。でも、どうしても我慢出来なかったの……。それなのに貴女は、私が悪者になるのを庇って、『アイディアだけはワタシの物』と嘘をついた。私の言ったことが、只の言い掛かりだとわかった上で。私、それが惨めで更に貴女を追い詰めてやろうと思った。だから、ことあるごとに難癖付けて、貴女をいじめていたの……!!」


 三玲の告白に、不思議とワタシは怒りは湧いて来なかった。ただ、


「そうなんだ……」


そんな言葉しか出なかった。


「結果、私のせいで貴女は孤立した。でも、孤立しながらも絵を頑張っている貴女の姿を見て、心打たれた。自分勝手だけど、徐々に、友達になりたいという気持ちが生まれて来たの……。菜穂、ホントにごめんなさい。でも、あの頃は、ああいうことしか出来なかったの」


 やっぱり、最初は三玲、ワタシのこと嫌いだったんだ。まあ、白斗君に告白を断られたことを思うと、当然か。


「三玲、今もワタシのことが憎い?」


「……ううん。私、今は菜穂のこと、友達だと思ってる。だから、憎くはないよ。でも、友達だからこそ、許せないことがある」


「白斗君のこと?」


「菜穂、貴女、白斗君から手紙貰ってるでしょ!! それも、ずっと!! 白斗君から聞いた。白斗君、待ってるよ。どうして、手紙返さないの!! あんなに白斗君と仲良かったのに……!!」


「そう、そのこと、知ってるんだ……」


「ワタシ、白斗君が転校する前に告白されたの。ワタシも白斗君のことが好きだったから、嬉しかった。その時は、ワタシも好きだったと言って、付き合うつもりだった。だけど……白斗君の想いが大き過ぎてワタシは受け止め切れなかった。白斗君の告白を断ったの。そこからよ。白斗君の手紙が月に1度、届くようになったのは。白斗君のことは嫌いじゃない。嫌いじゃないけどさ。ワタシも白斗君に何と返せば良いのか、わからないのよ。白斗君に嫌われたくはないしさ」


「菜穂、それはずるいよ!!」


 話を聞いていた三玲は突然そう言った。


「嫌われたくないとか適当な理由を付けて、白斗君から離れないようにしてる。菜穂も苦しんでるか知らないけど、白斗君、多分菜穂より苦しんでいると思うよ。菜穂、手紙出しなよ!!」


 三玲のその言葉は、ワタシにはあまり響かなかった。


「そう言って、ワタシと白斗君の関係を崩そうとしてるんでしょ!! 友達だと思ってたのに……」


 ワタシのその言葉に三玲はとても悲しそうな顔をして、


「私にはわからないよ!! どうして、菜穂が白斗君の告白を断ったのかも。全然わからない!! 貴女と白斗君、あんなに仲が良かったのに!! どうして、そうなったの!! 白斗君がかわいそうだよ!! 白斗君が、どんなに貴女のことを想って手紙を送ってると思ってるの!!」


 ワタシに怒鳴りつけるようにそう言った。


「ワタシにはワタシの考えがあるの!! 白斗君のことは知ってる風にあーだこーだ言わないでくれない!!」


 ワタシは三玲にそう言葉をぶつけた。


「手紙も出さず、何もしないのが貴女の考え? 菜穂のバカ!! このままじゃ白斗君、いつまでも菜穂のことを一方的に想い続けるかもよ。白斗君、かわいそうだよ」


 三玲はそう言うと、何かを取り出し、ワタシに見せた。


「これ、白斗君から菜穂に渡して欲しいって頼まれてたの。ホントは渡したくなかったけど……」


 それは、スケッチブック。開かれたそこには、沢山の“ワタシ”が描かれていた。


「悔しいけどさ。菜穂……白斗君は菜穂を想像だけで、ここまで描けるんだよ。こんなに貴女のことを想ってるのに? 白斗君のいったい何が不満なの?」


「三玲……どうして貴女がこれを?」


 ワタシはスケッチブックをめくりながら言った。


「私、断られた後も、しつこく、白斗君の所に行ってたの。白斗君、“友達”として迎えてくれたわ……」


 ワタシは夢中になって、スケッチブックをめくった。どの“ワタシ”も笑ってる……。スケッチブックのどの“ワタシ”も笑顔で描かれていた。ワタシ、こんな笑顔、いつ白斗君に見せたの?気付いたら、ワタシの頬には涙が伝っていた。


「菜穂だって、ホントはまだ、白斗君のことが好きなんでしょ!! 自分の気持ちにもっと素直になりなさい!!」


 三玲は諭すように、ワタシに声を掛けた。


「高校だって、ホントは白斗君と同じ所に行きたいんじゃないの?」


 三玲の問いかけに、ワタシは答えなかった。


「私はいいよ。別の高校に行っても。そりゃ、寂しいけどさ。私、菜穂のこと好きだし」


「…………」


「とりあえず、庫野町女子一本は止めな!! 白斗君、受けられないから!!」


「…………わかった」


「ん? 何がわかったの?」


「手紙のことも、高校のことも、わかったって言ってんの!!」


 ワタシは涙でぐちゃぐちゃになった顔で三玲の顔を見て、そう言った。


「ん……、よろしい」


 そう言った三玲は、笑顔で泣いていた。ワタシは今度の白斗君の手紙に返事を出すこと、庫野町女子以外の高校も受験することを三玲と約束した。今思えば、三玲は白斗君がどの高校も受けることを知っていたのかも知れない。

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