scene 11

白斗君と一緒に①

 こうしてワタシは、日向と同じ戸乃学園高校の入試で白斗君と出会い、庫野町女子の進学を止めたのだ。あの時、三玲が言わなければ、ワタシは庫野町女子高校に進学していたことだろう。


 ところで、その三玲はどうしたかというと……、


「白斗君、菜穂、イチャイチャしちゃって、憎らしいわ~。」


 同じ教室で、笑いながら三玲はこちらを見ている。


 そう、三玲も戸乃学園高校に進学している。ワタシが約束を守る為に戸乃学園を受けることを伝えると、


「じゃ、私も受けよ!!」


と言って、受けていたのだ。受験した時は、番号が離れていたので、別々だったが、試験が終わってからホントは三玲と合流するはずだった。ワタシと白斗君の姿を見て、三玲は空気を読んで合流しなかったのだ。


 後日、ワタシは三玲にだけ白斗君と付き合うことになったことを伝えた。三玲なら、きっと喜んでくれる。そうワタシは確信していた。案の定、三玲は自分のことのように喜んでくれた。


「三玲、ありがとう。」


「私は別にお礼を言われる様なことは何もしてないよ。ただ……」


「ただ……?」


「もう、白斗君を悲しませないでね」


 三玲はそう言って、にっこりと笑った。ワタシはその時、三玲の複雑な心情を感じた。


「これからも友達で居てね。」


 ワタシの口からはそんな言葉が漏れた。


「???、当然。これからも宜しくね、菜穂!!」


「うん!!」


 ワタシたちはそう声を掛け合った。



 放課後……。


「菜穂、一緒に帰ろう!!」


 通学カバンを持った白斗君が、帰り支度をしていたワタシにそう声を掛けてきた。


「あ、うん!! ちょっと待って」


「三玲、またね!!」


 ワタシは三玲の席に行き、そう言った。


「あぁ、菜穂、またね!!」


 三玲は帰り支度をしながら、ワタシにそう言った。


「よし、じゃあ帰ろう!! 白斗君!!」


「あぁ。」


 帰り道……。


「知らなかったよ。菜穂、羽場本さんと仲良かったんだ。」


「うん!  そうなんだ。白斗君が居ない間に仲良くなったんだ!!」


 ワタシは生き生きとした声で言った。


「えっ、そうなんだ……。羽場本さん、良い人なんだけど、好き嫌い激しい人だから……」


 白斗君は意外そうな顔をしながら、そう言った。


「そうなのね。でも、ワタシは好きって言われたよ」


 ワタシは親密になった頃の三玲の気持ちを言葉にして言った。


「ふーん、そうなんだ……。意外だな……」


 白斗君は首をかしげて、そう言った。ワタシは次の言葉を迷っていた。三玲の話を続けた方が良いかな、話を変えた方が良いかな。白斗君が居た頃は、全く三玲とは関わりを持っていなかったから、白斗君に不思議がられているのは確実だ。でも、だったら何故、スケッチブックを渡したのか、知りたいんだよなぁ……。


 ワタシがそんなことを考えている内に、白斗君が話し掛けてきた。


「菜穂は中学校生活、楽しかった?」


「うん? うーん……」


 ワタシは直ぐには答えられなかった。辛かったことも確かにあった。白斗君に助けを借りたい時もあった。でも、振り返ると思い出すのは楽しいことだ。


「辛いこと、苦しいこともあったけど……楽しかったのかな?」


 ワタシはそう答えた。白斗君は苦笑いをして、


「俺はあんまり楽しくなかったよ……」


そう言った。


「白斗君……」


「でもね……」


 白斗君は言った。


「離れたからこそ、わかったこともあったよ!!」


 白斗君は、その続きを言わなかった。ワタシは、続きは聞かなかった。何となくわかったから。


「あっ、菜穂、この道だったよね?」


「うん!!」


「じゃあな!!」


「うん、じゃあね!!」


 ワタシたちは別れた。帰る道すがら、ワタシは三玲に白斗君がスケッチブックを渡した理由を考えていた。


 白斗君にとってあのスケッチブックはそんなに重要ではなかった? いや、そんなことはあり得ない。白斗君はワタシのことを常に考えてくれていた。だからこそ、白斗君と戸乃学園高校の入試で巡り合えたのだ。例えワタシの下にスケッチブックが渡らなかったとしても、白斗君がワタシを本当に好きだという気持ちは三玲には伝わる。つまり、三玲には自分のことはすっぱりと諦めてほしいという意思の表れだったのだ。そして、うまくワタシの下にスケッチブックが渡れば、ワタシの気持ちも変わるんじゃないかと思って渡したのだ。実際、あのスケッチブックを見てワタシの心は大きく揺れ動いた。白斗君の思うようにワタシは白斗君のことをより好きになった。しかし、その気持ちに反して、ワタシは白斗君と縁を切りたいとも思った。


 白斗君にとって賭けの一種だったのかもな。ホント、白斗君のワタシに対する想いって凄いんだな。改めて、白斗君の凄さを実感した。

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