scene 19

日向!!

 高校2年になった。


 高校2年になり、三玲とはクラスが離れ、日向とは同じクラスになった。


 ワタシは日向に対して、ワタシが日向の発言に激怒して以来、顔も合わせていなかった。勢い余って絶交とは言ったものの、本当に絶交なんてしたくはないし、元の関係に戻りたい。ワタシが謝るしかないか……。



 昼休み。


「日向!!」


 ワタシは、男友達と昼飯を食べている日向に、声を掛けた。


「なんだよ、犯罪者の彼女。いや、殺人犯の彼女か」


「はっ!?」


 和やかだった教室が、日向とワタシによって一気に凍り付いた。


「おい、日向!?」


「直球過ぎるだろ!?」


「おまっ!?」


 日向の周りの男友達が、口々にそう言う。


「いいんだよ、こいつとはもう絶交してるからな!!」


 周りの声をものともせず、日向はそう言った。周りの視線が、ワタシと日向に集まる。ワタシは何も言わずに、日向の頬を思い切りひっぱたいた。


「痛ぇ!!」


 日向は反動で椅子から転げ落ちた。


「これ以上言ったら、殺してやる!!」


 ワタシは強い口調で、日向に向かってそう吐き捨てると、自分の席に戻った。日向は何も言い返しては来なかった。周りの生徒も何も言わなかった。


 ワタシは机に突っ伏して声を潜めて泣いた。チャイムが鳴り、授業が始まっても泣いた。


「授業始めるぞー」


 先生が来て、委員長が号令を掛けてもワタシは立たなかった。しかし先生も察していたのか、何も言わなかった。


 授業中も泣いた。ひたすら泣いた。声だけは出さなかった。


「それじゃ、今日はここまで。ちゃんと復習しとけよ!!」


 授業が終わった。


「楓!!」


 先生に呼ばれた。


「は……い……」


 ワタシはか細い涙声で顔を上げて返事をした。


「……ちょっとついてこい!!」


 ワタシはゆっくりと立ち上がり、先生の後について行った。


 連れて来られたのは、美術室。先生はあの美術部顧問だった。


「楓、何があったか知らんが、説教だ」


「は……い……」


「お前は俺の授業を丸々聞かなかった。罰として、他の授業も出るな!!」


「えっ!?」


「そうだろ、俺の授業が聞けないんだ。後の授業も無視しかねない!! 他の先生に失礼だ!! 罰として、ここに居ろ!!」


 先生のその言葉に、ワタシは無言で頷いた。


「あのな、楓。俺に簡単に、気持ちがバレるようじゃ、まだまだ子どもだぞ!! 先生方には、俺からちゃんと言っとくから。あと、部活動は別の場所を使うようにするから、好きなだけ罰を受けろ!!」


 先生はそう言うと、美術室を後にした。


 あぁ……。


 辛い。哀しい。悔しい。情けない。恥ずかしい。


 様々な負の感情が渦巻いて、また涙が溢れ出し、とまらない。


 チクショウ!! チクショウ……。


 白斗君、貴方に逢いたいよ……。



 何時間、其処に居ただろうか。気付けば、夜になっていた。


 皆、帰ったかな……。


 ワタシはそっと美術室を後にし、教室に向かった。



 教室。


 良かった……。みんな帰ってる……。


 ワタシはいそいそと荷物をまとめ始めた。


磯山いそやま~、悪い。荷物、教室に忘れてたから取って来るわ!!」


 遠くから聞き覚えのある声がする。日向だ。


 ヤバい!! 日向が来る!!


 ワタシは日向に会わない何かが起きないかと強く願った。その願いは叶わなかった。


「菜穂……」


 真っ直ぐにワタシを見る、日向の姿がワタシの目に映った。


 ワタシはキッと日向を睨むと、日向が入ってきた扉とは反対の扉から、急いで教室を出た。


 後ろから直ぐに、日向の声が聞こえた。


「菜穂っ!! 俺が悪かった!! 言いすぎた!! 許してくれ!! 絶交はやめよう!!」


 駆け足で去ろうとするワタシは、立ち止まることはしなかった。ワタシは振り返らず、必死に逃げながら、日向のその言葉に安心した。日向とは長い付き合いだから分かる。白斗君への悪態だって、言いすぎたと思っているはずだ。でも、簡単に許す訳にはいかない。簡単に許せることじゃない。


 そのぐらいのことを、日向は言ったのだから。



 翌日。


 ワタシは普通に登校した。昨日の今日で周りは少し騒がしかったが、無心でいた。日向はワタシのことをチラリとみたが、すぐに目を反らした。ワタシの方から日向に話し掛けることはしないし、日向も話し掛けてはこない。


 これで、いいんだ。


 ワタシは、日向との仲を修復することを放棄した。日向も、ワタシとは関わらないようにしているのがよくわかった。


 日向とクラスが同じだったこの1年は、この関係がずっと続いた。2年が終わり、3年になると、日向とクラスもばらけて、さらに関係が薄くなった。白斗君の話題も出なくなり、ワタシはさも白斗君のことはもう忘れましたという風に振る舞った。実際には、白斗君のその後が気になって仕方なかった。

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