scene 20
白斗君の行方①
日向との関係があまり改善しないまま、高校3年になった。
三玲とはクラスはばらけたものの良い関係を保てており、部活動も楽しかった。
美術部は黒森先輩、金子先輩が引退、卒業し、中学で部長をした経験もある三玲が、高校でも部長をすることになった。
後輩も2年生が3人、1年生が2人入ってくれて、廃部になることもなく、充実した部活動が送れた。
本当ならば、白斗君も一緒に活動していた筈なのに……。絵を描いていると、度々、白斗君の顔を思い出した。絵を描くことの楽しさを教えてくれたのは、紛れもなく、白斗君だ。白斗君が昔、ワタシの似顔絵を描いていたように、ワタシも白斗君の似顔絵を描くことをするようになった。
ワタシの描く白斗君もいつも笑顔だ。やっぱり、白斗君は笑顔がよく似合う。
後輩から、「誰を描いて居るんですか?」と訊かれたとき、「大切な人」とワタシは答えた。
「彼氏ですか?」
後輩の1人が尋ねてきた。今の後輩達は、白斗君のことは当然知らない。
「うん、彼氏。今ちょっと遠くに行っちゃってるんだ。もう少ししたら会えるかもしれない」
「留学ですか?」
「いいや。悪いことしちゃって、警察に逮捕されちゃった。」
それを聞いた後輩達は、思った通り驚いていた。
白斗君のこと、ウソついても良かったけど、ウソは隠せば隠すほど、ウソがバレた時の印象が悪くなるから、本当のことを話した。
「何して捕まったんですか?」
「……とっても悪いこと。」
さすがに、実のお母さんの死期を早めたとは、ワタシは言えなかった。後輩達も、納得しきれず困惑していた。当然だよね……。でも、これ以上の説明の仕方がわからないんだ。ごめんね。
「この話はもうおしまい。さっ、みんな作業に戻って。」
ワタシはそう言って、話を切り上げた。そう言いながら、ワタシは申し訳ない気持ちと歯がゆい気持ちでいっぱいになった。
もしかしたら、白斗君はもうワタシのことを彼女とは思ってないかもしれない。時々、そう思う時がある。でも、白斗君から直接別れの言葉を言われてない。ワタシはまだ、白斗君の彼女でありたかった。
白斗君は、一緒に暮らそうと言ってくれた。ワタシはその時、びっくりしたと同時に嬉しかったんだ。でも、白斗君が恐怖の一面を見せた時は、全身が震えた。白斗君に殺される、そう思った。
それが不思議と、時間が経つと白斗君がそんなことをするはずがない、と思えるようになってきた。
白斗君は今、少年院にいる。少年院という場所は、3親等以内の親族か、学校の先生、支援企業担当者くらいしか面会を許されていない。ワタシがいくら「白斗君の彼女だから、面会をさせてください」と言ったところで面会は許されない。
まず、白斗君が入っている少年院がわからないのだが、風の噂で、白斗君がそろそろ出院するという話を聞いた。ワタシは一目、白斗君の姿が見たくてたまらなかった。最期に貰った手紙の通りなら、白斗君は自殺してしまう。それはなんとしても食い止めたかった。少年院で過ごすことで、気持ちに変化が現れていることをワタシは願った。
それは、高校3年も夏休みに近づいた頃。白斗君が出院したという噂がどこからか流れてきた。
白斗君の出院。
ワタシは、この日を待ち望んでいた。白斗君の居場所を知るために、白斗君の住んでいた家に行ってみた。電話も繋がらなかったので、もしかしたらと思っていたが、やはり既に引っ越しをした後だった。近くの人に、どこに引っ越したのか聞いてみたが、誰もが「知らない」と言っていた。もしかしたら、手紙なら転送で白斗君の家に届くのではないかと思い手紙を書いた。
しかし、これも駄目だった。手紙は送り先不明で返ってきてしまった。
もう使える手段がない。
そう思った。
しかし、ワタシは思い出した。
もう使う宛もないと思って、机にしまっていたポケベルが、まだ使えるかもしれないと。机にしまっていたポケベルは、既に電池が切れていた。まだ数回しか使っていない、新品同然のポケベル。しかし、電池は使っていなくても消耗していた。
ワタシはポケベルの電池を取り替えて、すぐに白斗君のポケベルに送信した。もしかしたら、白斗君はもう使っていないかもしれない。電池が切れて、動かなくなってるかもしれない。もう誰かに処分されているかもしれない。
それでも、ポケベルの電波が、白斗君に届いていると信じて、ワタシは電話が鳴るのを待った。
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