大学ラプソディー④

 まあ、男同士で話したいことがあるのもわかるけど、もう少しワタシにも教えて欲しかったな……。


 ワタシがそんなことを思っていると、白斗君の電話がどうやら終わったようだ。


「兄さん、来てないって」


 電話が終わるなり、白斗君がワタシにそう話し掛けた。


「管くんのお兄さん、この辺に来てるから、気を付けて、とは言っといたよ」


 その話を聞いたワタシは驚いた。


「管くん、お兄さんが捕まってたって知ってたの?」


「ああ、俺が少年院に入ってたことも知ってるよ」


 管くんと白斗君がそこまでの仲だったとは……。


「俺、菜穂が思ってるよりも管くんと仲良いからな」


 ワタシの心を読み取ったように、白斗君が言った。


「そうなんだ」


「ああ」


 この時のワタシは、よくある普通のことだと思ってたんだ。気が合って仲良くなることは普通のことだ。なんの問題もない。ただ、管くんに白斗君との時間が取られて、ちょっと寂しいかな。そう思ってたんだ。そう、救いようのない真実を知るまでは……。



 ◇◇◇



 ある日、ワタシは白斗君の家に遊びに行った。その日、ワタシは白斗君にアポを取らずに遊びに行った。玄関を開けると、靴があった。おや、誰か来ているみたいだ。


「おじゃまします」


 中に入ると、白斗君と管くんが何か作業をしていた。


「管くん、来てたんだ」


「おじゃましてます」


 白斗君と管くんは本を読みながら、何か作っている。


「何作っているの?」


「……」


 白斗君も管くんも何も答えない。


「ねぇってば……どうして答えてくれないの? 白斗君、白斗君ってば!!」


 業を煮やしたワタシは、少し強めに白斗君に訊いてみた。


「ごめん。菜穂、違うんだ……」


「えっ!?」


「ごめん。菜穂、違うんだ……」


「えっ、どういうこと?」


 ぶつぶつとそう呟きながら、作業を続ける白斗君。白斗君にワタシは、何度も聞き返した。しかし、白斗君は、


「ごめん。菜穂、違うんだ……」


を繰り返すばかり。


「楓さん」


 管くんが笑いながら、ワタシの方を見て答える。


「白木くんは、明主様のお言葉をいただいたから、何を言ってもムダだよ!!」


「えっ?」


 どういうこと? 明主様?


「そう、我らが明主様の御心に触れた白木くんは、明主様の為に奉仕しているんだ」


 そう言うと、管くんは作業を止めて、ワタシに写真を見せてきた。髭を蓄えた、仙人みたいな老人。これが明主様?


「管くん、この写真に写ってる人誰?」


 明主様ではないかもしれないので、一応訊いてみた。


「明主様、御本人だよ!! この人こそ、あらゆる人間の頂点にふさわしい。楓さん、君も"輪廻の輪"に入らないかい?」


 どうやら、白斗君と管くんは"輪廻の輪"という宗教団体に加入したようだった。


 いったい、いつから? そして、何がきっかけで? どうしてこうなった? 何をしている集団なの? 今までそんな素振り、一切見せていなかったのに。


 でも、ワタシは直感的に、良くない団体だと感じた。


「管くん、その団体、ちょっと危なそうなんだけど……」


 ワタシは、管くんに控えめにそう言った。


「危なそうって、何が?」


 管くんは不思議そうな顔をした。微塵みじんもそんなことは感じていないみたいだ。


「なんていうか……その……従わされてるみたい……。というか、そもそも今も何をやってたの?」


「従わされてる? そんなことないよ!! みんな、望んで"輪廻の輪"に入ってるよ!! 今やっていることも、"輪廻の輪"の活動の一部だよ!! 世の中の為になるクスリを作ってる!! ねっ、白木くん?」


 管くんは、白斗君に同意を求めた。


「白斗君、そうなの?」


 ワタシは、白斗君に尋ねた。白斗君は、こう答えた。


「……管くんに、『´“輪廻の輪”の明主様は凄い!! 白木君も一度お会いしてみて!!』そう言われて、明主様の所に連れて行かれた。そして、そこに居られた明主様は俺にこうおっしゃられた。『君は、人殺しかね?』と。初対面で。俺は、心底驚いた。そして、恐れた。周りの皆に、俺が人殺しの犯罪者であることが知られてしまったことに。だけど、皆、笑顔でこちらを見ている。管くんが言った。『ここに、嘘はないよ』と。それに続いて、明主様もおっしゃられた。『私に付いてきなさい。ここでは、全てを許そう』と。そう言われた俺は、不思議と何故か俺自身を許そうと思えた。そして、俺はそこを受け入れた」


 ワタシには、訳がわからなかった。その明主様に会っただけで、こんなになるの? ワタシには、インチキ宗教にしか思えない……。ただ、白斗君の言葉を黙って聞いているだけで、ワタシはぎゅっと心が掴まれる感じがした。


「なっ!! わかっただろ!! 明主様は凄い!!」


 管くんのその言葉に、急に頭がクラクラした。


 何、どうしたんだろう……? もしかすると、白斗君たちが作っていたクスリが原因?


 そう思ったがワタシは、意識がなくなっていった。

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