大学生になりました。②
嗚呼、紛れもない、白斗君の声だ。
「うん、ワタシ、菜穂だよ」
ワタシは嬉し過ぎて、おかしな返事をしてしまった。
「よかった。菜穂だ。続けていい?」
白斗君、前のようなあどけなさがないというか、しっかりしてるというか、少し変わった気がする。
やっぱり、少年院に入ってたことが、白斗君を変えてしまったんだ。
「うん、いいよ」
「菜穂、俺は罪を犯した。実の母を殺してしまったんだ」
「うん、わかってる」
「俺は、菜穂を幸せにすることが出来ないかもしれない。また、以前のように暴走し出すかもしれない。菜穂を殺そうとするかもしれない。菜穂、それでもいいか?」
白斗君の話に身がすくんだが、以前の白斗君に言われた時より全然怖さを感じなかった。
「白斗君、ワタシは今でも白斗君の彼女です。ワタシは、白斗君についていきます」
「……っ!!」
白斗君はワタシの返事に言葉を詰まらせた。
「……良いのか?」
「うん、大丈夫だよ。電話の白斗君、よく知ってる白斗君だもの。優しいのも、怖いのも、全部知ってる」
「ありがとう……菜穂、これからも、俺と付き合ってくれ。」
「うん。」
白斗君の3度目の告白をワタシは受けた。
白斗君が入学してくるまでの間に、ワタシは白斗君に何かプレゼントをしようと思い立った。
思えば、白斗君にはいろいろと貰ってばかりで、何にも返せていない。
白斗君と付き合っていない頃、誕生日のプレゼント交換でクッキーを渡したことがある。
だから、白斗君の誕生日は知っているが、付き合ってから誕生日を一緒に祝ったことなんて、一度もなかったから。
今年も、白斗君の誕生日は終わってしまったけれど、是非プレゼントを渡したい。
白斗君、何でも喜んでくれそうだけど、やっぱり、年相応に実用的な物がいいよね。
すぐには思いつかないけれど、白斗君の入学祝いに必ず何か用意するぞ!!
とりあえず、一番大きなデパートにやって来た。プレゼントって具体的にどのような物を贈るのが良いのか全然見当もつかなかったので、管くんにも来てもらった。
管くん、
「俺にはないの……」
って悲しんでたけど、
「ご飯奢るから」
と言ったら、機嫌を直してくれた。
管くんいわく、彼氏としては、普段から身に付けられる物が嬉しいんだそうだ。財布とかネックレスとか……。管くんの助言を鵜呑みにはしないけれど、一理あるかなとワタシは思ったので、腕時計を買うことにした。
管くん、
「俺にはないの……」
また、言ってきた。
「バレンタインに義理チョコあげる」
と言ったら、喜んでた。管くん、操り易いな。
◇◇◇
期末試験を終えて、大学は長い春休みに入った。白斗君なら、入学試験も必ず合格してくれるに違いない。春からは白斗君と同じキャンパスを歩くことができる。あー、早く春にならないかな。
そういえば、黒森さやかもこの大学に入学するようなこと言ってた。日向ともっと近付きたいのだろう。黒森さやかもそうだけど、白斗君が高校受験の時に、同じ高校に入りたいと言っていた気持ち、今ならホントによくわかる。たとえ少しでも長く、好きな人のそばに居たい。この前の電話で白斗君の声を聞いただけで、心臓がバクバクいってたし、興奮してたもん。
人と比べてもいけないけれど、こんな恋愛、他にしている人が居るだろうか?恋愛は千差万別、人の数だけ恋愛にも種類がある、こんなことを言う人が居るけど、本当にその通りだと思う。
恋愛って難しい。でも、恋愛って楽しい。
この先の未来がどうなるかなんて、ワタシにはわからないけれど、ワタシたちはワタシたちなりの恋愛をしていく。人は人、ワタシたちはワタシたちだ。
ここまで来るまでにいろんな事があったけれど、これからの白斗君とワタシには、明るい未来がきっと待ってる。そう願わずにはいられない。それくらい、白斗君は傷ついている。
ワタシももちろん辛かったけれど、白斗君のことを考えると、胸がきゅうっと苦しくなる。白斗君の罪は、ワタシも背負っていく。ワタシの幸せは、白斗君にも分け与えていく。
それくらいの心意気は、ワタシにだってあるのだから。これからの白斗君は、幸せにならないといけない。ワタシだって幸せにはなりたいし、白斗君だってそれを願ってるはずだ。ワタシたちももうすぐ二十歳、大人だ。大人らしく、責任ある行動を、言動を、態度を、姿勢を、とっていこう。
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