第37話 ブタ箱から宴会場まで

 地下牢に幽閉されているアキラ。

(おかしいなぁ?

 なんで、僕、牢屋に居るんだろ?)


 そう、姉妹の居城から領主の住む街に帰るかたわら、所構わず『神隠し』の話を聞いて回ったアキラ。

 その行為に目が留まったのか、領主の街に着いたところで、騎士団に呼び止められるアキラ。

 ごちそうすると言葉巧みに誘われ、お酒を飲み、夜が明けると牢屋に居たのである。

(まぁ、服を残してくれたのは、幸いだな。)


「目が覚めたかな、剣士殿。」

 聞き覚えのある声が、隣の壁から聞こえてくる。

「どちら…ああ、姉妹の居城であのときお会いした魔道士殿でしたか。」

「ええ。」

「魔道士殿も、こちらに?」

「ええ、貴方を捉え損ねたおかげで、ここに居ます。」

「じゃぁ、僕が捕まったから、魔道士殿は無罪放免になりませんか?」

「放免にはなりませんでした。」

「そうですか…。」

 しばらくの沈黙が流れる。


「ところで、魔道士殿、ここは何処なんです?」

「領主邸宅の地下牢です。」

 アキラもようやく目が慣れてきたところで、見渡すと、向かいの牢屋にもうずくまった二人の人影が見える。

「尋問とかして貰えるんでしょうか?」

 アキラは、改めて魔道士に話しかける。

「無理でしょうね。

 私は問答無用で、ここに放り込まれましたから。」

 魔道士の深いため息が聞こえる。


「飼い殺しですか。

 …しかし、あの領主様がここまで下品とは…。」

「いえ、我々を幽閉した主犯は領主では有りません。

 彼に甘言をささやあいじんです。」

「おかしいですね。

 ここの領主には美人の奥方と一人娘が居たはず…。

 それが、妾の甘言なんて…。」

「最近、お二方がお隠れになったというのです。

 …まさに、神隠しに有ったかのように。」

「なるほどね。」

 アキラは溜息をつく。


 不意に黒フードの巨躯がアキラの牢屋の前に現れる。

「宴席は、注意が必要ね、アキラ。」

 男性の声が響く。

「そうですね、ハインケル卿。」

 クスクス笑うアキラ。


「さて、パーティーを始めましょう。

 貴方が主役で私は裏方よ。」

「であれば、となりの魔道士も舞台に上げませんか?」

 黒フードが魔道士を見る。

「貴殿のお名前は?」

「ヴェネットと申します。」

 黒フードは頷く。


「ハインケル卿、申し訳ありませんが、僕が主役を張るからには、隠し玉も欲しいんですが?」

「贅沢ですね、君は…。」

 黒フードは頭をかく、その手はガイコツだった。


「すいませんが、後ろの二人の保護を願えませんか?」

 黒フードが振り向くと、動くことのない二人の人影。

「これが、隠し玉ですね。

 …ふむ、早速保護しましょう。」

 柔らかい光が輝きだし、程なくして光とともに姿を消す二人。


「ふむ、気になることも有りますが、無事健康体にしてみせるわ。」

 そう言い残して、黒フードが霧のように消え、牢屋の鍵とカセの鍵が外れている。


「それでは、ヴェネット殿、参りましょうか。」

「ヴィーと呼んで下さい。

 アキラ殿。」

「僕もアキラで結構ですよ。」

 そう言って、檻から出ると、エモノを探し始める二人。

 不思議なことに、衛兵はもちろん、使用人なども見当たらない。

 お互いに目当ての物を見つけたところで、作戦を練り始める。


 話が一頻りまとまる頃、黒フードの巨躯が二人の隣に実体化してくる。

「お待たせしました。」

 三人は相槌を打ち、エモノを携え、舞台に立つべく歩を進める。


 さすがに、居住区画に入ってくると衛兵や使用人にも出会ってしまう。

 当然のように捕まえようとする衛兵・使用人に、睨みを効かせ、相手の動きを封じるアキラ。

 絵画の一幕のように立ち尽くす衛兵・使用人を前に三人は悠然と歩く、さながら凱旋する英雄よろしく領主の控える居間を目指す。


 彼らが到着すると、誰が言うまでもなく開かれていく扉。

 中に佇んで居るのは、中央最奥に領主とあいじん、右翼には衛兵長と衛兵が完全武装で待機、左翼には冒険者たち複数パーティーが戦闘態勢のまま待機している。


「これはこれは、極上の舞台に主賓も揃いましたねぇ。」

 黒いフードの巨躯がせせら笑い

「僕、主役を張って良いんでしょうか?」

 アキラもニヤけている。

「いいと思いますよ。」

 相棒片手に上機嫌のヴィー。

「それじゃ、パーティーしましょっ!!」

了解、相棒You got it Buddy!!」

 アキラが踏み出すと、二人が同じ言葉を吐いて扉の中に入る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る