第16話 娘も三人揃えば、姦(かしま)しい

「驚いたわね。

 あんなに簡単に話してくれるなんて。」

 寝間着に着替えたソープが話したくてたまらないオーラ全開になっている。


「え、ええ。

 まさか、あんな展開が待っていたなんて…。」

 アリィに髪を梳かれながら頷くシャル。


 ◇ ◇ ◇


「そう言えば、ソフィア嬢は、どちらの伯爵令嬢なのでしょうか?」

 シャル達との相談が一段落し、改めて開かれた午後のお茶会にて、ラインが質問してくる。


「この戦場で行方知れずとなられた、トリントン伯爵のご息女です。」

 アリィが答え、ソープは俯いてしまう。


「まあまあ、それは大変でしたね。」

 何となく他人事のように生返事をしているラインが、書斎の机から書類を取り出そうとしている。


「…貴方達が、殲滅した部隊よ…。」

 ふつふつと怒りのオーラに染まるソープ。


 そんな事はお構いなしのライン。

 捜索すること5分。

「ああ、これよ…これね。」

 言うが早いか、書類を机上に引っ張り出すライン。

 ソープの顔を眺め、瞳が『にっこり』と笑うが、当のソープはご立腹中。


「オリヴィアさん、これをソフィア嬢にお渡し頂けませんか?」

「かしこまりました。」

 ラインより、書類の束を受け取ったアリィは、ソープの元へ書類を届ける。

 ソープは、書類に目を通すこと無く、握り潰そうとする。


「ソフィア嬢、手渡した本人の前で、書類に目を通さないとは、いかがなものでしょうか?」

 ラインの嫌味に、潰しかけた書類を持ち直し、内容を読み始めるソープ。


 さて、資料を読むに従い、ソープの怒気は何処へやら、何とも珍妙な面持ちで、ラインを見返してくる。

「どうしたの?

 ソープ?」

 一連の動作を不思議そうに眺めていたシャルの質問に、書類を渡すことで答えるソープ。


「!!!」

 受け取った書類に目を通し、慌ててラインの方に視線を送るシャル。

 同じく、書類を覗き込んでいたアリィもラインの方を見てしまう。


 ◇ ◇ ◇


「まさか、うちの父や兄を助けた上に、領民まで領地に返還してくれていたとわね。」

 ソープは熱く語っているが、シャルはラインの一言に引っかかっていた。

「『ソフィアお嬢さまの領地であれば、王都の監視も届きにくいでしょうから…』か。」

 シャルが呟く。


 勇者パーティーは壊滅、僅かに残った兵たちが帰国できたとして、今の国王の不興を買うのは目に見えている。


「シャル、お父様に掛け合って、捕虜となっている兵士たちを私の領内に匿ってもいいわよ。」

「ありがとう、ソープ。

 でも、早々に食糧問題が起こってしまうわ。」


 住民数百名の街に、三万人が押し寄せれば、誰でも即日食糧事情が悪化することを容易に想像できる。


「迷惑をかけているとは言え、今しばらくはライン殿の話に乗っておくしか有りません。」

 シャルの言葉にソープが黙ってしまう。


「お嬢様、そろそろ就寝の時間です。」

「ありがとう、アリィ。

 おやすみなさい、ソープ。」

「おやすみなさい、シャル。」

 そういうと、キングサイズのベッドにシャルとソープは眠り、アリィは、ベッド脇の椅子に座って眠りにつく。


 ◇ ◇ ◇


 ここは、先程シャル達が謁見を受けた大広間。

 首脳陣が集まり、今後の展望等を打ち合わせている。


「…ということで、恐らく国王自ら軍を率いて押し寄せる可能性が有るかと、愚考します。」

「そうか。

 御本尊の登場になってしまったか…。」

「御意。」

 玉座のリッケルトに正対する下僕しもべたち。

 進み出ていたラインが報告を終わり頭を下げ、列に戻る。


「モック!

 ホーランド王都に放っている偵察隊くさからの報告はどうなっている?」

あるじの指示通り、捕虜たちの家族は確保しています。

 また、敵の部隊展開は、ラインの推測通りに動いているようです。」

「そうか。

 …できる限り、国民は温存させるんだ。

 あの、第三王女に治めてもらう国だからな。」

 ニヤッと笑うリッケルトと、軽く敬礼を送るインディアンモック


「他に何かあるものは?」

「閣下に報告したき議がございます。」

 リッケルトの問いに、一歩進み出る黒騎士。

「どういった話か?

 ミッキー。」

「はい、今回のいくさに従軍していた、近衛騎士隊長を名乗るものから要望がありました。」

「話は…僕に会ってからじゃないと話す気はないんだよね?」

 面倒くさそうな顔になるリッケルト。


「いいえ。

 ただ、自分達の身と引き換えに、第三王女の保護を求めています。」

「話の出来そうな相手なのか?」

「戦略という点では、難が有りますが、愚直な騎士であると確信しております。」

 黒騎士ミッキーは、毅然と答え、リッケルトも諦めがついたのか、身を乗り出して答えた。


「解った。

 会って話してみることにしよう。

 ライン、第三王女の同席は頼めそうか?」

「確認してみます。」

 リッケルトからの予想問答に素早く答えるライン。


「頼むぞ。」

「御意。」

 ラインの返答を確認し、お辞儀をし列に戻るミッキー。


 全員の顔を確認するリッケルト。

「では、本日の会議はここまで。

 みな、ご苦労であった。」


「ははっ!」

 ミッキーから始まり、一人また一人と部屋を出ていく下僕たち。


 最後にラインが扉のところで立ち止まり、振り返る。

あるじさま、今回は無事に彼女たちを国に帰すことは出来ますでしょうか?」

「さあな…。

 こればかりは、本人たちと国民の総意にかかっているからな。」

 リッケルトは後頭部をかき、ラインは頭を下げ、扉を締めた。


「国に帰すこと…か。」

 リッケルトは、玉座を立ち窓の方に歩み寄っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る