第17話 ホーランド王国

 家臣が顔を揃えた円卓の席上、国王が席を立ち、みるみる青ざめていく。

「それは…本当か?

 勇者殿が倒されたのか?」


「恐れながら…。」

 報告した通信兵も平伏し、頭を上げる気配がない。


「他の勇者達は…。」

 国王が絞り出すような声を上げる。


「…全滅です。」

 通信兵も絞り出すように答える。


 ざわつき始める家臣団、国王も呆けたように席にドカッと座り込んでしまう。

「どうするんだ?

 もう、避ける兵力は無いぞ…。」

「国内の全領主から兵力を搾り取れば…。」

「もはや、各領主も兵などは居ない。

 この前の戦で全て注ぎ込んでいる。」

「では、どうするんだ?」

 喧々諤々の論争を続ける家臣団をしり目に、国王の瞳には生気がない。


 やがて纏まることのない論争も収まり、家臣団の視線が国王に集まる。


「陛下…。」

 宰相が国王の顔を覗き込むと、国王の瞳は赤く輝き、口元では意味不明な言葉が漏れ出している。

 宰相が驚き、身を引こうとした瞬間、宰相の肩を鷲掴みし立ち上がる国王。


「全軍を持って、事にあたるのだ!

 全ての兵をかき集めよ!

 男であれば、年齢は問わぬ!

 根こそぎかき集めるのだぁ!!」


 再びざわめきだす家臣団ではあったが、国王の赤い瞳に射抜かれると、全員が平伏し、国王を称え始める。

 国王は腕を組み、満足気に頷く。


 腕を天に掲げ、神の祝福を受けているかのように、恍惚な笑顔で王は語る。

「そうだ!

 ここは、私が創った国なのだ!

 勇者である、この私がぁ!!」


 そして、平伏した家臣団を見回す。

「お前達は、私の部下しもべだ!

 我が威光に応え、我が意思に従うのだ!!」


 家臣団は平伏したまま答える。

「ホーランド国王様、万歳!

 我々は、貴方様の下僕しもべ

 我々の全てを貴方様に!」

 その有様を満足気に眺めるのは、赤い瞳に不敵な笑みを浮かべる国王であった。


◇ ◇ ◇


 勇者の一団とともに、第三王女が崩御された一報は、深い悲しみを持って王都内の人々にもたらされた。

 そして同日、男性の徴用が王都内で早急に始まるという一報に、王都内の人々は動揺するしかなかった。


 さらに三日を置いて、人々の不安と悲しみをあざ笑うように、王都では男性へいし狩りが始まり、人々はパニックを起こした。

 結果、王都各所で暴動が発生するものの、血の雨が降った後、全て平定されるのであった。


 そして、進軍の朝を迎えた。

 生気を失った男性達には、年齢にかかわらず枷が着けられ、囚人のような有様で戦地へ引き立てられて行く。

 囚人の後に進軍するのは、鎧を身にまとった犯罪者ならずもの達である。

 犯罪者ならずもの達は、戦地へ赴くのであれば、過去の犯罪ばかりか、戦地での行為も一切不問という特典に釣られ、我先にと兵に志願したのである。

 そして、志願兵には、装備が一式支給され、犯罪者ならずもの達は、あたかも騎士のような風体になっていた。


 家臣団も全員騎士の鎧をまとい、国王一家を囲み進軍していく。

 家臣の騎馬部隊の中央には、華麗に飾り立てられた馬車が一台、鎧姿の国王と、喪服を纏った二人の王女が乗り込んでいた。


 進軍する兵隊を前に、衰弱しきった視線と散発的な拍手で応える王都住民女性達

 華やかな出陣の式典に反して、その風景は葬送の行列のようにさえ見えた。

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