第18話 ホーランド王国軍の進行

~ライン視点~


「これは酷いわね。」

 王都に送り込んだ密偵の視線を水晶越しに眺めているライン。


 一応の規律を守って王都を出立した国王軍ならず者一団。

 だったのではあるが、途上の人里に入れば、略奪の限りを尽くし、男は徴用、女性は暴行された挙げ句、打ち捨てられる。


「これは、早々に手を打たないと…。」

 ラインはベルを鳴らしてスケルトン部下達を呼び出し、これから繰り広げられるであろう惨状を回避すべく、指示を出した。

 指示を受けたスケルトン部下達は、変装を済ませた後、ラインの操る次元門魔法によって、方々の村落へ出立した。


次元門ゲート。」

 そしてラインは水晶に映されていた村に急行した。


 瞬く間に噂は広がり、国王軍一団が戦場までの途中に通過する村落の人々は姿をくらませることになる。


◇ ◇ ◇


 ~キャサリン視点~


 同じ頃の、ここは捕虜収監牢。

 農婦達と共に連行された挙げ句、仲間を魔物達に売り渡し、自責の念に駆られるキャサリンが牢の壁に佇んでいる。


「キャス…。

 何か食べないと…死んでしまうわ。」

 一人の若い農婦が、パンとスープを持って近づいてきた。


「要らない。」

 そう言って、キャスは若い農夫に背を向けた。


「ここに置いておくね。」

 パンとスープをキャスの足元に置いて立ち去り、農婦達の所へ戻る若い農婦。


「最近、パンの質が良くなたわよね、スープもお野菜が増えて、美味しくなったし。」

「何があったのかしら?」

 と、食事の改善で盛り上がっている農婦達。


 さて、姦しい農婦たちの声を聞きながらモックが牢の外にやって来た。

「やぁ、キャサリンさんはいらっしゃるかい?」


 モックの姿に固まる農夫達。

 キャスはゆっくりと牢の入り口に顔を向ける。


「やぁ、キャサリン。

 君の出番だ。」

 モックの言葉に、何かを悟ったのか、キャスはゆっくりと立ち上がると、よろめきながら入り口へ…モックのところへやって来た。


「お呼びですか?」

「ああ、君の出番…って、ちゃんと飯は食べてるのかい?」

 キャスの様子にモックが戯けてみせる。


「お気遣いなく。

 さあ、行きましょう。」

 モックは肩をすくめ、気丈に振る舞うキャスを従え、捕虜収監牢を後にした。


◇ ◇ ◇


(はぁ…実りの無い人生だったわ。)

モックの背中を眺め、キャスは人生の整理を始めていた。


(私…どうやって殺されるの…か…し…ら?)

女性の姦しい話し声が、いい匂いとともにキャスの五感を刺激し、彼女の人生整理を中座させることになる。


「ああ、そうだった。

キャス、ちょっと寄り道をしよう。」

 そう言ってモックは、女性の姦しい話し声が聞こえる、いい匂いのする扉を開いた。


「!!!」

 キャスは扉の向こうに広がる光景に息を呑んだ。


 エプロン姿の女性陣。

 そして、彼女達の腰元には同じくエプロン姿のコボルト達。

 全員が和気あいあいと料理に励んでいる。


「すまないが、食事の手配をお願いしまぁ~~す。」

「はぁ~~いっ!」

 モックの依頼に全員が笑顔で答える。

 そして、モックの影に佇むキャスを見つけると、女性陣達が駆け寄ってくる。


「キャスっ!

 助けてくれてありがとう。」

 代る代るお礼を述べる女性達に、目が点になったままのキャス。


 どうやら、キャスがモックに差し出した女性達は、全員『食事係』として、登用されることになったようである。


「最近は、ご飯の質も改善したでしょ?」

 目が点になったままのキャスに、ニヤケ顔のモックが振り返る。


 さて、料理を載せたテーブル台車とコボルド達を従え、キャスとモックは歩き出す。


「申し訳ないが、貴女には辛い役回りをお願いすることになる。」

 モックが神妙な面持ちでキャスに振り返る。

「どういう事?」

 キャスはモックの目を見る。

 モックは視線を反らそうとするが、キャスは更に覗き込んでくる。


「実は、強姦された女性達のケアをお願いしたいんです。」

 キャスの顔が曇り、モックも渋い顔になる。


 そこへラインが登場する。

 突然の化け物襲来に凍りつくキャス。

 ラインの顔を眺め、モックがキャスを紹介する。

「やぁ、ライン。

 頼まれていたケアマネージャだよ♪」

 キャスはビクビクしながらモックとラインの双方の顔を見ている。


「こんにちは、お嬢さん。

 無理を言ってすまないが、ヨロシク頼むわね。」

「わね?」

 ラインの語尾に反応するキャス。

「あらあら…。」

 ラインは口元を抑え、軽く手を振って見せれば、キャスも吹き出している。


「では、頼んだよ!」

 そんな二人のやり取りに、気を良くしたモックはそそくさとその場を離れ、ラインとキャスは今後の対応について熱心に話しているのだった。

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