第15話 ガイコツの歓待

『ラインのお部屋』とかわいい丸文字で書かれた表札がかかっている黒鉄の重々しい扉。

「ささ、お嬢様方、どうぞこちらへ。」


 扉を開くと、フローラルな香りが部屋から漏れ出してくる。

「!!!」


 部屋に入り絶句する女性陣。

 白で統一された室内、華の装飾が施された調度品の数々。

 そこかしこに花瓶が置かれ、色とりどりの花々が生けてある。


「ささ、こちらへ。」

 案内されるまま、部屋の中央にある応接セットに通され、三人は座らされる。


 ラインが可愛らしいベルを取り出す。

 軽やかな音色が風のように部屋を流れていく。

 すると、先程無理やり着替えを手伝ってくれたメイドたちが現れる。


「お前たち、お茶とお茶うけを準備しなさい。

 …ああ、茶葉はこの前仕入れた物を使うのよ。」


??」

 ラインの語尾に食いつく三人。


「あらやだ、私ったら…。」

 ヨヨと笑いながら、奥にある書斎に座るライン。

 程なくして、お茶とアフタヌーンティースタンドに焼き菓子をたくさん載せてメイドたちが戻ってくる。


 お茶の準備を整えていると、アリィがすっと立ち上がり、ラインの前に行くとカテーシを行う。

「僭越ながら、ハインケル様、お嬢様方の給仕は、私めに任せて頂きたく…。」

「それもそうね…。

 お前たち、下がりなさい。」

 ベルを鳴らすと、メイドたちはお辞儀をし、一人また一人と消えていった。


 優雅なお茶の一時が流れ、準備された焼き菓子も順調に消費され、今、アリィが最後のお茶を注いでいた。


「それで、ハインケル伯は、私らからどんな話を聞き出したかったの?」

 ソープがラインに目を向けて話す。

 シャルも不安げな面持ちでラインに視線を送る。


「ソフィア嬢、私はただの将兵に過ぎません。

 ラインとお呼び下さい。」


 そして、ラインは質問事項も含め今回の尋問の経緯を話し始める。


「…ということは、あの戦いで兵たちをほぼ捕虜にされたのですか?」

「はい、シャーロット殿下。」

 机に肘を付き微笑むライン。

 無表情なガイコツではあるが、無いはずの瞳…瞳の光がニヤリとしている。


「では、話を進めましょうか、シャーロット殿下。」

 シャルも、ソファーの座りを浅くする。


「はじめに断っておきますが、私たちはお互いに敵対するものではないということです。」

「解りました。」

「シャルっ!

 ちょっとっ!!」

 話を静止しようとするソープに人差し指を口に当て、黙るように促すシャル。

「…。」

「よろしいですか?」

 ラインの声に頷くシャル。


 そしてラインは質問を始めるのだった。


 ◇ ◇ ◇


 一つ目の質問:現在の国内におけるシャルの地位について。


「地位って?

 第三王女でいいんじゃないの?」

 ソープが聞き返す。


「地位という言葉に語弊があったかしら…。

 そうねぇ、経済力とか、発言力、あとは軍事力かしら。」

 ラインが説明を継ぎ足す。


「経済力は…荘園は持っていません。

 発言力も…姉たち程は有りません。

 私兵も居ません。」


「そうですかぁ。」

 シャルは肩を落とし、ラインもため息をつく。


 二つ目の質問:王位の継承権について。


「現国王…お父様には、私を含め娘が三人しか産まれませんでした。

 側室は設けず、お母様を心から愛していましたから。

 私は第三王女であるため、王位の継承からは外れています。

 王位を継承するということであれば、姉たちの夫たる勇者様が最有力かと思います。」


 そして、大粒の涙をポロポロと溢し出すシャル。

「お母様が崩御した辺りから、お父様が豹変してしまいました。

 思えば、姉たちも変わってしまったように思います。」

「ひょっとして、勇者が貴国に滞在した頃から変わったりしなかった?」

「!!!」

 ラインの問いに絶句するシャル。


 三つ目の質問:戦いに参加した兵士の帰国に問題はないか。


「どういうことですか?」

 怪訝けげんそうな顔のシャル。

「簡単な話です。

 帰国した兵士に敗戦の責任は問われないかということです。」

「!!!」


 意図を理解した途端、当惑するシャル。

「その様子だと、返還は無理そうね。」

 ラインの言葉に、何も言えないシャルだった。


 ◇ ◇ ◇


 ラインは書斎から立ち上がり、鈴を鳴らす。

 メイドたちが現れ、食器を片付け、新しいお茶セットが準備される。

「みなさまの宿泊先を準備しておりますので、今しばらくはお寛ぎ下さい。」

「もう少し、お話できませんか?」

 部屋を立ち去ろうとするラインをシャルが止める。


「ふむ…。」

 しばし考え込むライン。


 やがて書斎に座り直し

「シャーロット殿下、どのような話題をご所望ですか?」

 話し合いは再開する。

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