勇者を喰らう者

たんぜべ なた。

烏合の衆

第1話 空回りの現場

「勇者様ぁ!

 敵が盛り返してきましたぁ!」

 先陣から走ってきた通信兵が報告を上げる。


「分かりました。

 弓士、魔法混成部隊の射程範囲内まで、先陣を後退させて下さい!」


「了解です!」

 きびすを返し、先陣へ戻る通信兵。


「うまくいくのかしら?」

 勇者のそばに立つ女性魔術師が問いかける。


「大丈夫さ。

 奴らは烏合の衆。

 調子に乗って攻め込んでくるはずさ。」

 わざとらしく肩をすくめ、女性魔術士に返答する勇者。


「それよりも、ミーム。

 君も所定の場所に移ってくれないかい?」

 勇者はやんわりと、女性魔術士ミームにお願いをする。


「しょうがないわね。

 じゃぁ、行ってくるわね。

 私のソロモン。」

 ミームは、勇者ソロモンにウィンクをおくり、弓士、魔法混成部隊のもとに移動しはじめた。


 ◇ ◇ ◇


「よぉ~し、指示が下りた。

 全軍、後退する!」

 両腕に円型小盾バックラーを装備した戦士が檄を飛ばす。

 すると、先陣部隊は後退を開始し、檄を飛ばした戦士が殿しんがりに就く。

 彼の脇には、治癒術師の少女がサポートに入っている。


「オリヴィア!

 遅れるなよっ!」

 戦士が声をかければ、治癒術士の少女オリヴィアも答える。

「途中でコケないでね、マキシっ!」


「フンっ!」

 走り込んできた、コボルド達を殴り飛ばす戦士マキシ

 吹っ飛んだコボルド達が、敵先陣に吹っ飛び、敵の進撃を阻害する。

 それを合図に、オリヴィアとマキシも後退を始める。


 ◇ ◇ ◇


「ミーム様。

 先陣が後退してきました。

 マキシ様とオリヴィア様の撤退ももう間もなく。」

 通信兵がミームの前に膝をかがめ報告する。


「分かりましたわ。

 総員、戦闘配置!」

 ミームの号令のもと、弓は引き絞られ、魔法の詠唱は始まる。


 やがてマキシとオリヴィアが姿を表すが、後続が姿を見せない。


「どういうこと?」

 困惑するミーム。

 彼女のもとに到着したところで、追撃がないことに気づき、自分達の走ってきた方向を見つめるマキシとオリヴィア。


「「「追手が来ない??」」」

 三人は困惑するしかなく、他の部隊員も攻撃の手を止めてしまった。


 ◇ ◇ ◇


「どうなっているんだ?」

 ソロモンは爪を咥え、明らかに苛立っている。


「「「ごめんなさい。」」」

 異口同音で頭を下げる、彼の仲間達。


「あ、いえ。

 君たちを攻めているわけではないんだ。」

 仲間を前に、明るく取り繕っているソロモンだったが、頭の中は混乱していた。


(相手は、コボルドやゴブリンといった低級のモンスターばかりの筈。

 ちょっかいを出せば、ムキになって攻めてくるから、誘い出して殲滅出来るはずなのに…。

 誰か後ろで手引をしてるのか?)


 仲間が視界に入っていないのか、首を傾げ始めるソロモン。

 彼の仲間達はうなだれている。


(しかし、そんな事をしても、誰が得を…。)

 そこで、三人のうなだれた仲間の姿が視界に入るソロモン。


「ああ、すまない。

 今日は、解散としよう。

 みんな、ご苦労さま。」


 ソロモンの言葉に、深々と頭を下げ、天幕を離れるマキシとオリヴィア。

 そして、ソロモンの前に留まるミーム。


「どうしました?

 ミーム…んっ。」

 突然、ソロモンの口を奪い、そのまま簡易ベッドに倒れ込むミーム。


「今日はここまでにしましょう。」

「そ、そうだな…。」

 ミームの瞳は赤く輝き、ソロモンも幻惑に絆され、ミームを受け入れるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る