第26話 後始末
シャルはベッドに入るが昼間の映像で眠れるような気分ではない。
横を見れば、ソープが疲れたのであろう、静かな寝息を立てている。
反対を振り返れば、心配そうな顔のアリィと目が合ってしまう。
「お嬢様、眠れないのはごもっともですが、少しでも休まれて下さい。
明日も重要な会議が続きます。」
シャルはうなずき目を
「お嬢様…。」
そんなシャルを眺めるアリィの表情も複雑だった。
同じ頃、別部屋に通されたグレゴール。
慚愧に堪えない厳しい表情のまま、彼は窓の外に浮かぶ蒼い月を眺めていた。
早晩にも王国の崩壊を告げる足音が彼の耳には聞こえているのかも知れない。
◇ ◇ ◇
翌朝、再び会席が持たれ、今後の方針について意見が交わされていく。
出席者は、敵側にリッケルトにラインとミッキーが座り、王国側にはシャル、ソープ、そしてグレゴールが座り、給仕係兼側仕えのアリィが立っている。
「では、シャーロット殿下を擁立して、王都に帰還されるということですね。」
「はい、私が全軍を掌握した体で殿下の側に付きます。」
シャルとグレゴールがリッケルトに答える。
答えは極めてスマートなものだった。
王国の国体を維持すること。
シャル達が取り得る最善の策にして、他に術がないものである。
リッケルトとの会談を前に、四人は申し合わせていたのである。
「わが主、露払いは我々が引き受けたく、彼らへの帯同を許可願います。」
ラインとミッキーが膝をかがめる。
「と、言っているが…どうするね?」
リッケルトがシャルに水を向ける。
「有り難い申し出ですが、それでは、我々が国民を敵に回すことになります。」
「だそうだ。」
ニヤッと笑い、ラインとミッキーを見るリッケルト。
「シャーロット殿下、貴女は正しい。
しかし、どうやって王都へ帰還される?」
「やましいことは何も有りません、正面から堂々と入場します。」
「もし、貴女を吊るそうとする者たちが現れたらどうするんだ?」
「この身を引き渡し、されるがままに辛酸を嘗めましょう。」
シャルの顔は青ざめてはいるが、その瞳に迷いはなかった。
その姿に、ラインが改めて懇願する。
「我が主よ、露払いの帯同を切に願います。」
リッケルトも頷く。
「シャーロット殿、いつ王都に帰還されるか?」
「明朝には発ちたいと考えています。」
「解りました。」
ゆっくりと席を立ち上がるリッケルト。
「ライン、ソフィア嬢にお願いして、トリトン領の兵を露払いに
武装はこちらの物を提供させろ。」
「承知しました。」
返事と同時に姿を消すライン。
「俺も、あんたらに死なれてもらっては、寝覚めが悪い。」
シャルが涙を浮かべながら礼をすると、グレゴールも同じように頭を下げた。
「ミッキー、先行して驚異の掃討を行っておけ。」
ミッキーは頭を下げると、姿を消す。
「さて、殿下自慢の侍女に頼んで、お茶を楽しむとしよう。」
そう言って、ニッコリ笑うリッケルトだった。
◇ ◇ ◇
夕食時、いつものラインのお部屋で、ささやかな壮行会が開かれていた。
「…お通夜ですねぇ~。
どうにも。」
グラスを片手に、先程乾杯を済ませたのだが…シャルもソープも黙り込んでいる。
アリィも給仕をしているが、話す雰囲気ではない。
「あのぉ~、みなさん、お食事が冷めないうちに食べていただけませんか?」
「ラ~ちゃんが食べれば、い~じゃないっ!」
頬を膨らませ、ソープがラインに切り返す。
「ほら、私、ガイコツですからぁ…あはは。」
服を広げ、おどけて見せるガイコツ。
その滑稽さにシャルも含め全員がふきだしてしまう。
一頻り笑い声が収まるまで、道化を演じるガイコツ。
「さてさて、それでは、食べましょう。」
「はいっ!」
ラインに促され、ようやく食事に手を付けるシャル。
その様子を見て安心したのかソープも食べ始め、アリィもようやく給仕を始めた。
「でも、驚いたわよ。」
ソープが話し始める。
「ラ~ちゃんが、私のところに来るなり、城内にいるトリトン領の兵を貸してくれって言われるんだもん。
装備が無いって言ったら、魔法付与の装備一式を渡されるし…。
まぁ、シャルの護衛って事なら、喜んで協力するし、私も凱旋に同行するわよ。」
「ソープ、そこまでしなくても…。」
シャルが心配そうにソープを見る
「これは、父の意向でもあるのよ。」
ソープがシャルにウインクを返すと、ラインがカラカラと笑い出す。
「素晴らしい友をお持ちですな、シャーロット殿下。」
決して単純な事では済まされない王都入場。
さて、三人娘の前に立ちはだかるものは…。
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