第25話 刈られるモノたち 後編

「ところでリッケルト、私の父や姉たち…国王や王女たちは、いつから憑依されていたのでしょうか?」

 シャルはリッケルトに問い質す。

「さぁ、私にも判りかねますね。

 例えば、勇者が訪れた…とか、王家のどなたかが亡くなった…とか。」

「「「「!!!」」」」

 それぞれに思い当たることが有ったのだろう、四人揃って立ち上がってしまう。


「お心当たりがありそうですね…勇者訪問以外に。」

 リッケルトの問いかけに、戸惑いながらもグレゴールが答える。


「女王…シャーロット殿下の母君の逝去です。」

 シャルは大粒の涙を流し、そんなシャルを抱き寄せながら、ソープも涙を流している。

 放心状態のアリィ。

 グレゴールは話を続ける。

「シャーロット殿下の母君は、国王陛下の後妻でした。

 彼女自身も前夫を失われており、公爵家の跡目相続から弾き出されたところを、国王陛下に拾われたのです。

 当時の国王陛下も前妻を病で失われており、傷心だったことも否めません。

 似たような境遇の二人が惹かれ合ったのは自明の理なのかもしれません。

 ちなみに、前妻のお子様が二人の姉姫です。」


「私の父は、亡くなった父親で、父王は養父でしかありません。」

 シャルは絞り出すように話を差し込む。


 グレゴールは更に続ける。

「シャーロット殿下の母君が逝去されたのは、シャーロット殿下が修道院の修練に入られた三日目の事でした。

 これは、シャーロット殿下にははばかられるのですが…。」

 グレゴールは女王の凄惨な遺体の状態と、おびただしい血糊で朱に染まった部屋の惨状をリッケルトに事細かく説明した。

 彼としては、女王の仇を取りたい一心で話しているが、シャルの嗚咽に気付いたところで、慌てて口を押さえるが…。


「グレゴール…続けて下さい。」

 シャルが強いて話すように進め、グレゴールはシャルに頭を下げた後、話を続けた。


 一通りの話を聞いた後、リッケルトは話し始める。

「女王…シャーロット殿下の母君は、生贄だったと見るべきだな。

 そして、生贄の代償が国王と姫君二名に降ろされた『偽りのカミ』というわけだ…。」


 そしてゆっくりとアリィに視線を向けるリッケルト。

「『偽りのカミ』を彼らに降ろしたのは、君ら『勇者パーティー』。

 恐らくは、女性魔術士ミームだと思われるが…ね。」


 アリィは放心状態で固まり、外界の音が遮断されている。

「私が…私たちが『偽りのカミ』を手引したというの…。

 そ、それじゃ、勇者ソロモン戦士マキシも…。」

「『復活の秘法』を唱えられたのではないか?

 …恐らく、心当たりがあるとすれば、君しかいない筈なんですよ…オリヴィア嬢。」

「た…たしかに…。」

 パーティーが壊滅状態に陥った時、ミームに頼まれ『復活の秘法』を用いて、強制的にソロモンとマキシを回復させ、何とか事態を解決することが出来た…筈であった。

「それが…こんな事に…。」

 震えながらその場に崩れ落ち、言葉もなくうずくまるアリィ。

 そこに駆け寄るシャルとソープ。


「シャル…ゴメン…ワタシ…ワタシ…。」

 嗚咽を漏らすアリィを囲み、シャルとソープが涙ぐみながら抱き合っている。


「リッケルト殿、一つよろしいだろうか?」

 グレゴールが問いかける。

「何ですか?」

「勇者と戦士を始め、国王陛下や王女様がたに『偽りのカミ』がということは、理解できましたが…。

 では、一連の事態を招いた女性魔術士は、一体どうやって自身の身に『偽りのカミ』をというのだろう?」

「呼んだのさ…自分の命と引換えに…。

 その意志は何だったのか…もはや理解も敵わないけどね。」

 リッケルトは宙を仰ぎ、グレゴールは深くため息をついた。


「勇者ってのは、

 誰のためにあるんだろうね?

 何のために居るんだろうね?

 彼らの目的は何だったのだろうね?」


 リッケルトが続けるとグレゴールは口籠ってしまう。

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