第35話 とある冒険譚

「どうします、アキラ?」

「クロウさんはどう考えてます。」

 ベッドに寝転がって天井を見ながら二人が話している。


「おそらく、監視役がいるでしょうから、帰路の途中で消されるでしょうね。」

 クロウが答えるとアキラも頷く。


「困りましたねぇ…。

 神隠しは事実なのですが、ここが震源地ではなさそうですし。」

「まぁ、今後の方針は、トマスの話を聞いてからでも、良いんじゃないですか?」

「そうですね…。

 であれば、僕はもう寝ます。

 こんなフカフカの寝所で寝ることは今後もないでしょうからね。」

 アキラの一言に吹き出すクロウ。

 …そして寝息が静かに聞こえ始める。


 朝日が差し込み、にわかに明るくなってくる寝室。

 ゆっくりと起き上がるアキラ。

 見るとクロムウェルの寝ていた場所に彼は居なかった。


 アキラが起きた音に気付いたのか、メイドが寝室に入ってくる。

「おはようございます。」

 一礼してアキラの傍まで来るメイド。


「お、おはようございます。

 …すいませんが、伴の者を知りませんか?」

「クロムウェル殿は、日の出前にトマス殿の神聖マロウ帝国ぼこくに出立されました。」

 おもむろにポケットから手紙を取り出すメイド。

「クロムウェル様より、こちらを預かっています。」

「ありがとうございます。」

 手紙を受け取り、一読するアキラ。

 読み終わると手紙をメイドに渡す。


「すいませんが、このまま手紙を{あるじ殿にお渡し願えますか。」

 メイドは手紙を受け取ると、寝室を出ていく。


 アキラも服を着替えると、窓から外を眺める。

 城壁の内側では、畑や菜園を手入れしている人々が居る。

 その仕事風景を眺めていると、この家の当主あるじたる姉妹が入ってくる。


「アキラ殿、貴方の身柄を与りますわ。」

 ライラがにこやかに話しかけてくる。

「しばらく、ご厄介になります。

 つきましては…。」

「ええ、一切承知よ。」

 アキラの返答の途中で、彼の唇に人差し指を当てて、会話を遮るライラ。

 シイラも隣でニコニコしている。


「頼むわね、用心棒さん。」

 アキラはお辞儀をして質問する。

「しかし、驚きました。

 吸血鬼は日中は眠っているとばかり…。」

「勿論、寝ることも有るわよ。

 日中はどうしても活動に制限がかかるから…。」

「解りました。

 お世話になります。」

 そう言うと、寝間着代わりになってしまったモーニングを脱ぎ始めるアキラ。


「それでは、仕事に入ります。」

「期待してるわね。」


 アキラにウインクを送ると部屋を出ていく姉妹。

 入れ替わるように装備を持って来るメイド。

「ありがとうございます。」

 律儀にお礼を言うアキラとにこやかにお礼を返すメイド。

 レザーアーマーを着込み、マントに身を包むアキラ。


 ◇ ◇ ◇


 姉妹の屋敷を発ち、城内の人々に挨拶を交わしながら、城門まで来る。


 門兵と二言三言交わし、外に出、城壁外周をゆっくりと歩き出すアキラ。

 さて、外周を四分の三回ったところで、アキラの前に立ちはだかる五つの人影。

 全員がマントを羽織り、手にもつエモノはバスタードソード。


「おやおや、同業かと思えば、どちらのお抱え騎士団ですか?」

 アキラが黒刀の柄に手をかけるのを合図に、ソードを振り上げて襲いかかる五人。


「問答無用ですか。」

 襲いくる五人の間を駆け抜け、居合抜きで切り伏せるアキラ。

 呻き声を残し崩れ落ちる五人。


「なるほど、刀の峰で殴打するとは‥。」

 突然出現する一人の魔道士が、五人の傍らに立ち、その様子を眺めている。

「お相手が必要ですか?」

「いや、止めておきましょう。

 私も、この者たちを連れて帰らなければなりませんから。」

 ロッドを背中に仕舞い、敵意がないことを示す魔道士。

 刀を鞘に収めるアキラ。


 二人はお辞儀をすると、それぞれ歩き出す。

 なお、五人は宙に浮かせて運ぶらしい…。


「そう言えば剣士よ、この城壁の向こうにいる吸血鬼について、意見を伺いたい。」

「意見とは?」

 魔法使いの言葉に、振り返ること無く聞き返すアキラ。


「かの吸血鬼が、人種われわれに危害を与える存在かどうかということです。」

「人と変わりませんよ。

 友のように接すれば友であり、かたきのように接すればかたきとなるでしょう。」

 そう言い残し歩き出すアキラ。

 魔法使いも納得できたのか、そのまま歩き出す。


 やがて、周り終わると、何事もなかったように城門を叩き、中に消えるアキラ。

 その様子を中空から俯瞰していたライン。

「ほほう、冒険者にしておくには惜しい紳士ね。」

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