第36話 ドラゴンスレイヤー
屋敷に戻ると姉妹に一日の報告をするアキラ。
その姿を子供を見つめるように微笑む姉妹。
一通りの報告を終え部屋を出ていくアキラ。
アキラと入れ替わるように部屋に出現するライン。
「主様みたいでしたね、ライン様。」
「そうですね、シイラ。」
ラインに嬉しそうに話しかけるシイラ。
「誰が誰に似ているって?」
ラインの影から現れるリッケルト。
その異様な気配を察知したアキラが姉妹の部屋に飛び込んでくる。
「ライラ様っ!
シイラ様っ!
御免!
…って、ライン様に…そちらの方は?」
刀の柄に手をかけているアキラの前にライラがゆっくりと歩み寄る。
「こちらの方は、私たちの
「これは、失礼しました。」
刀から手を離し頭を下げるアキラ。
「ふむ、実に紳士的な冒険…いや、勇者かな?」
リッケルトがにこやかに話す。
「ここより、遥か北にある国。
西シプロア法国出身のドラゴンスレイヤー、アキラくんだったかな?」
「恐れながら、ドラゴンは退けただけで、倒してはいません。」
恐縮するアキラと、ドラゴンスレイヤーの称号に少々驚いている姉妹。
「確かに、ドラゴンは倒していないが、それよりも強力なものを倒していたはず…。」
リッケルトの目がギラつき出す。
「いえ、ヤツを倒したのは、僕ではなく…。」
アキラが話していると
「お久しぶりです、ソウルイーターのリッケルト卿。」
「おやおや、クロウ。
ご無沙汰だね。」
アキラの後ろから、クロムウェルとトマスが現れる。
「仕事は終わったのかしら、トマス。」
「はい、ハインケル枢機卿。」
トマスはニコニコしながらラインに会釈をする。
「ここで立ち話もなんですから、食堂に行きませんか?」
ライラの提案に全員が頷き、食堂に向かった。
「して、
リッケルトが楽しそうに聞いてくる。
姉妹も何故か興味津々っぽい。
ラインはアクビをしている。
「ドラゴンはともかく、神を名乗ったバケモノが難儀でした。」
アキラが大きくため息を付いた。
「トマスの封印と、クロウの亜空間幽閉がなければ、どうにもなりませんでした。」
「そうかそうか。」
すっかり上機嫌のリッケルト。
「まぁ、今後、
「は、はい。」
アキラが答えると、クロムウェルとトマスも会釈をする。
「で、ドラゴンとは友人になれたかい?」
「ええ、お陰様で。
…でも、彼は山に引きこもっていまして…。」
「はははは…、まぁ、そうだろうなぁ。」
一頻り談笑したのち、食事が出され、和やかに食事会が始まっていく。
姉妹は久々に来られた
「ライラ、シイラ。
素敵な時間と食事をありがとう。」
リッケルトがお辞儀をする。
「アキラくん、会えて光栄だったよ。
また、会える日を楽しみにしているよ。
…ライン、後は頼むぞ。」
そう言い残し、リッケルトは霧のように消えた。
「せっかちな御仁ですね、リッケルト卿。」
アキラが姉妹に話しかけると、コロコロ笑う姉妹。
「しかし、アキラくんが勇者だったとは…ね。」
「僕は、ただの冒険者ですよ。
…勇者じゃありません。
…なりたくもありません。」
「どうして?」
「勇者って称号ほどロクなものは無いですからね。
縛りもキツイし…。」
「ふふふ…。
そうなのね。」
ライラとアキラの受け答えに大笑いしているラインが居た。
「そうね、
「今回の一件も、『勇者』という理由だけで、一方的に
何とも人を食ったような、あの領主様にね。」
「その領主とは?」
アキラの愚痴に乗ってくるライン。
「ええ、神隠しの逸話まで吹き込んで
…もちろん、ライラ様、シイラ様に
アキラは笑っていたが、ラインの雰囲気が少し変わっている。
「他に変わったところなどは?」
「領主の屋敷に変わったところは無かったかと思います。
領主本人はいけ好かないですけどね。」
「ふふ、いけ好かないとは…。
面白いことを言われる。」
「まぁ、何やら隠し事の多い領主であることは、確かなようですね。」
クロムウェルが会話に割って入ると、ラインもにこやかに頷く。
「そこでね。」
両手を合わせ無いはずの瞳に星を煌めかせるライン。
「貴方たち、私たちに買われない?
お給金弾むわよ。」
「内容を聞いてからが、商談というものですよ、ハインケル卿。」
ラインを前に含み笑いを浮かべるアキラ。
「では、商談を始めましょう。」
満面笑みのラインだった。
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