第32話 一方的な破壊

「おのれぇ、クソ忌々しい人間風情が…。

 ここまで神を愚弄するか?」

 歯ぎしりを始める怪物。


「おいおい、いくらここが神聖マロウ帝国きょうかいめいしゅ皇都大聖堂そうほんざん地下だからって、化け物が神様気取ってんじゃないよっ!!」

 黒い大剣を肩に担ぎ少年が吠えると、怪物も歯ぎしりをする。


「ほほほ、神聖魔法は先程の結界で満腹じゃ。

 後は、そこの臭い豚を食するまで。」

 バリトンが狡猾にせせら笑い、怪物の不興を買う。


「き、き、貴様らぁ~~~!

 コロス…コロス…コロス。」

「ほうほう、頭に血が上って、理性も消えていきよる。」

 激高する化け物と、それを嗜むバリトン。


「ほんじゃ、殺り合いますか。」

 黒い大剣を肩に担ぎ少年が走り出す。

 怪物はいくつもの魔法陣を展開し、魔法の波状攻撃に入る。


 火球、電撃、地吹雪、そして地割れが少年に襲いかかるが、すべての魔法を黒い大剣でぶった切る少年。

 魔法自体も、黒い大剣が触れると効力を失い、黒い霧となり赤い炎と化したルビーに吸い込まれていく。


「!!!」

 瞬く間に間合いが詰まっていく怪物と少年。

 尻尾の攻撃範囲に少年が飛び込んだ瞬間に八匹の蛇が襲いかかってくる。

 すべての蛇を薙ぎ払う少年。


「ぐぅああぁぁぁ~~~!!」

 蛇たちも切り裂かれたはしから魔法と同じように、黒い大剣に吸い込まれていく。

 そして、大剣の間合いに入ったところで、巨大な口が少年を襲うが、寸前ですり抜けた少年は、横薙ぎに大剣を振り抜ける。

「がぁぁああああ~~~!!」

 苦痛の声を上げ蹌踉よろめく怪物。

 黒い大剣に刻まれた文字は金色に輝き、怪物の肉体を蝕んでいく。


 怪物と少年が衝突している傍らで、呑気に白骨体にまじないをかけているインディアン。


「あのぉ…。」

「ん?」

 姉妹が不思議そうにインディアンの方に目を向けている。

「何をされているんですか?」

「ああ、蘇生だよ。」

「蘇生??」

 驚く姉妹にニッコリと笑顔を返すインディアン。

「こいつの肉体は滅んじゃいるが、神の封印によって、魂が肉体に取り残されてるんよ。」


「…。」

 動くはずのないガイコツの口がかすかに動く。

「お目覚めのようだな。」

 瞳のないくぼみに、かすかな光が宿る。

「ここは…。」

 視界に入るのは、インディアンと巫女服姿の少女二名。

 ガバっと起き上がるガイコツ。


「ヤツは…。

 神の封印で抑え込んだ、あの下郎は、どこに?」

「ああ、心配無い。

 うちの大将が潰しにかかってる。」

「潰すなど…神の力にも匹敵するあの化け物を、どうや…って?」


 ガイコツの視界に飛び込んだ光景は壮絶だった。

 怪物は半身を切り刻まれ、臓腑も引きずっている。

 片や黒い大剣を肩に乗せ、ひょうひょうとしている少年。


 虚ろな眼差しで、逆転の手掛かりを探す怪物いけにえ

 哀れな生贄の生命を徹底的に削ぎ落とす少年。

 その黒い大剣が怪物の身体に振り下ろされるたびに、断末魔の悲鳴が上がっている。


「はいよっと、お前さんの蘇生は完了だ。」

「すまない…。

 ところで、貴殿の名前は?」

「人の名前を聞くときは、自分から名乗るものじゃないかい?」

「私は、神聖マロウ帝国枢機卿が一人、ハインケルと申します。」

「俺は、モック。

 死霊使いネクロマンサーのモホークだ。」

 二人が握手を交わす姿の背後に、少女二人いけにえを目ざとく見つける怪物。

「オマエタチノタマシイヨコセェ~~。」


 満身創痍の怪物が、姉妹めがけて魔法を放つ。

 黒い霧が一枚の壁のように近づき、姉妹二人の体を貫き消滅する。

 霧に当てられた姉妹は崩れ落ちる。


あるじよ、そろそろ止めを刺すぞっ!」

「言われるまでもっ!!」

 バリトンに答える少年。


 怪物の虚しい抵抗を躱し、黒い大剣が怪物の頭部に突き刺さる。

「うぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ…。」

 最期に声にならない呻き声をあげて、怪物は沈黙する。

 刺さった黒い大剣は金色に輝き、ルビーも炎のように燃え上がる。

 すると、怪物は霧に変わり、黒い大剣に吸い込まれていく。


 しかし、外野は怪物など眼中にない。

 意識の無い姉妹の取り扱いで揉めている。

「モック、私みたいに蘇生は出来ないのか?

 身体にも外傷はないし…。」

「魂を多量に持っていかれてる。

 これでは、蘇生は無理だ。」

「じゃぁ、どうする。

 復活すれば、偽りの魂が潜り込んでくる…。」


「ガイコツよぉ。

 お前さん、種族を変えることで、魂を補う術を使えるんじゃないか?」

 ガイコツとモックの会話に割り込んでくる少年。


「種族…ですか?」

「なるほど、夜の王エルダーリッチなら、可能だな。」

「二人を真祖にしてしまえばいい。」

「はぁ??」

 少年の言葉に、顎が外れかかる白骨体。


「急げ、魂が消滅し始めている。」

 モックの言葉に促され、白骨体は姉妹に按手し、少年に師事されるまま呪文を唱え始める。

 赤みを帯びた光が姉妹を包み込み、その光度を増していく。


「よし、大丈夫そうだ…。」

 少年が呟くとモックも大きく頷き、白骨体も何かを理解出来たのか、大きく息をついた。

 光が徐々に弱まり始め、魔法の効果が収束すると、姉妹は静かな寝息を立てている。


「ガイコツ、俺はリッケルト。

 リックと呼んでくれ。」

「私は、ハインケルと申します。

 ラインとお呼び下さい。」

 二人が握手を交わし、モックは姉妹の様子を伺っている。

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