第33話 神の生贄

 私の名前はハインケル。

 地方の貧しい農家の父母の元、三男坊として生を受けた。

 長男と次男は父の仕事を引き継ぎ、それぞれお嫁さんを迎え、人並みの幸せを営んでいる。


 私は幼い頃に出会った精霊のいたずらにより、白魔法が使えるようになってしまった。

 この事を恐れた父母は私を教会に

 祭祀は喜んで私を引き取ると、その日から厳しい修行の日々が始まった。

 挫けそうになる私の心を支えたのは、同じように教会にの怪我などを完治させ、感謝される笑顔だった。

 そして二十歳ハタチを迎える頃には、祭祀に任命され、近隣の村々を廻っては、布教と治癒術を授けた。


 たまたま白魔法の才に長けていた私は、この奇跡によって、地方のヒラ祭祀から、教団本部中央へ推挙され、後に枢機卿へ推挙された。

 教団本部の仕事は、後進の指導、つまるところ、白魔法や治癒術を含めた神聖術の研究と伝授であった。

 頼りになる諸先輩、優秀な同輩、献身的な後輩に恵まれ、私は自分の力を存分に発揮して、多くの実績と成果を残すことが出来た。

 後に聞いた話によれば、私の活動していた頃が白魔法の革命・成長黄金時代だったそうだ。


 さて、教団本部の中枢に近づくに連れて、目に付き始めるのが『生娘いけにえ』という儀式の存在。

 本来、神は何の見返りも求めず、慈愛を持って我々の生活を見守る存在。

 神聖術は、その神の慈愛に希望をかけ、祈りの力を用いて、神の軌跡を顕現させる行為のはず…。

 それが、『生娘いけにえ』の多寡で神聖術が決まるなど、考え方がそもそもオカシイのではないかと思っていた。


 やがて枢機卿へ就任し、『生娘いけにえ』の儀式に関わる事になったところで、私は他の枢機卿達に働きかけ、忌まわしい儀式の封印に注力した。

 教義からのアプローチもあり、多くの枢機卿が擁護してくれた結果、『生娘いけにえ』の儀式は正式典礼から除外される事となる。


 しかし、宗教とは癖の悪い生き物のようなものである。

 そう、『生娘いけにえ』の儀式を密かに続ける一団が存在しているのだ。

 密かに繰り返される儀式…。


 儀式の現場を取り押さえるまでに、果たして何人の尊い犠牲が有ったのだろうか?

 そして、『生娘いけにえ』の捧げ先とは、白髪で穏やかな雰囲気の老人…まさしくであった。


 否、それは神に近きものでありながら、私の知ることの無きであった。

 白魔法は通じること無く、私の体術では傷を負わせることも叶わない。


 そして、無力な私の前で『生娘いけにえ』を貪り始める…。

 最後の力を振り絞り、祈りのすべてを捧げ、神の慈悲神聖術に縋る!

封印シールドっ!」


 光り輝く封印シールドの魔法陣が、私と邪神キャツを縫い付ける。

 そう、邪神キャツの住まう神聖マロウ帝国皇都大聖堂地下へ…。


 私の肉体は役目を終えた後も、私の魂を押し留めていた。

 そして、邪神キャツも力を落としたものの、この世界に顕現していた。


(力不足でしたかぁ…。)

 時間は流れていく…いつしか私も虚ろな魂となり…儀式を傍観するしかなかった。

 再び多くの魂が、無慈悲で忌まわしい儀式によって失われていくのだ…。

 それだけが、私を私たる想いとして、 この肉体に宿り続けさせた…。

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