第22話 蹂躙 ~シャル視点~

 画面いっぱいに展開される殺戮の地獄絵図。


 リッケルトに襲われ、背後からは姉姫たちの放つ火球魔法ファイアボールに駆り立てられ、逃げ惑う事も許されない兵士たち…。

 飛び散る四肢、阿鼻叫喚が聞こえそうなのですが、不思議と音は流れてきません…あるいは、私の耳が音を遮断しているのかも知れません。


 徐々に押し込まれ天幕へと追いやられる兵士たち。

 すると今度は父王自らが兵を斬り伏せ、前線に戻るように指示を出しています。

「お…お父さま。

 な…なんてむごい…。」


 見れば、姉姫たちまで敵味方の別なく火球魔法ファイアボールを撃ちまくっています、狂気の笑顔を隠そうともしません。

「お姉さまたちまで…。

 一体何がどうなっているの?」


 私は口元に手を当て、このおぞましい光景を眺めるしかありません。

 グレゴールとアリィは、私の傍に控え、同じ光景を静観しています、小刻みに体を震わせながら。


 そして、父王と姉姫たちの前に立つリッケルト。

 その手に抱える漆黒のグレートソードが笑っているかのようにも見えます。


 父王が剣を振りかざし飛びかかれば、姉姫たちもロッドに硬化魔法をかけ、両サイドから殴りかかっていきます。

 三方向からの攻撃を、半歩のバックステップでかわすリッケルト。

 

 攻撃を仕掛けた三人が、リッケルトの正面で一列に重なった瞬間、グレートソードが三人の肉体を貫きます。

 すると、三人の身体から黒い霧のような得体のしれない化け物が姿を表し、叫び出すのです。

「お、おのれぇ、人間風情が、我々にあだなすなど…。」

 父王の影がリッケルトに襲いかかろうと最後のアガキをみせています。


「われらのあるじを…か…え…。」

 長女の姉姫は、リッケルトに掴みかかろうと手を伸ばしています。


「ゆ…勇者…さ…。」

 次女の姉姫は、何かを懇願するような仕草で天を仰いでいます。


 漆黒の刀身に刻まれた黄金のクサビ文字が輝き出すと、見る間に黒い影が漆黒の刀身に吸い込まれていき

「「「グッッギャァァーーーッッ!!」」」

 三人は断末魔を残し、瞬く間にミイラとなった遺体は、黒い霧となって霧散しました。

 思わす立ち上がってしまた、私とグレゴール。

 後方で椅子が倒れる音がしたかもしれませんが、その大きな音さえ耳に入らいないほど、大きなショックを私は受けていました。


 三人の影が、漆黒のグレートソードから抜け落ちる頃、天幕一帯には、リッケルト以外は誰も居ません。

 彼は勝利を確信したようなポーズを取るわけでもなく、淡々と周囲の状況を確認しています。


 一息置いて、ようやく私はグレゴールに語りかけました。

「全滅したのでしょうか…グレゴール。」

「そのようです…。姫様。」


 騎士たちの遺体に目を凝らすと

「お父様におもねった方ばかりにも見受けられますが…。」


 グレゴールも騎士や兵士たちの遺体を凝視しています。 

「その…ようです。

 兵士に至っては…恐らく罪人どもではないかと…。」

「!!!」

 グレゴールの一言に驚き、私は兵士にも視線を向けました。

 確かに、彼らの肩には罪人を示す入れ墨が散見されます。


「そ…それでは…王国を支えてきた諸侯の方々は…。」

「…分かりません。」

 私の脳裏によぎるのは、自身を擁護してくれた諸侯や騎士の顔。

 私は段々と血の気が引いていき、手が冷たくなる感覚をおぼえました。

 グレゴールも同じような状況なのでしょう、深刻な表情で頭を抱え始めています。


 やがて画面は消滅し、入れ替わるようにリッケルトがラインを従えて、円卓に姿を表しました。


「終わりました。」

 そう言うと、ラインがお辞儀をし、リッケルトのとなりに控えます。


 しかし、私の思考は止まってしまい、眼前も暗黒に染まってしまうのでした。

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