第21話 蹂躙
「残念だが、少し遅すぎたようです。」
シャルたちとの会話を遮り、リッケルトはラインに合図を送る。
「
ラインが呪文を唱えると、食台の上に城を取り囲むホーランド王国軍の姿が映し出される。
「そ…そんな…。」
シャルの目に映る風景…それは、子供から老人まで兵士の前に立たされている姿。
兵士たちはニヤニヤしており、誰一人緊張感がない。
その後ろには騎士が控えるのだが、彼らにも威厳や風格はない。
そして、後方の陣地には天幕が置かれ、その前には国王と喪服に身を包んだ王女たちが鬼気迫る形相で立っている。
「
ラインが呪文を唱え、空間移動の扉を開けば
「もはや、衝突は不可避のようです。
我々は、彼らを迎え撃ちます。
今後の交渉は、この一戦を済ませた後と致しましょう。」
リッケルトは、寂しそうな眼差しをシャルたちに向け、暗闇に姿を消す。
ラインも、主人の後に従い姿を消すと、扉も閉ざされる。
「皆さんには、ここで一部始終を御覧頂きます。」
至って冷静なミッキーの声だけが場を征していくのだった。
さて、彼らの眺めている風景に、先程まで彼らと対話をしていた二人の男が敵対者として出現する。
吠えるように罵る兵士や騎士たち。
そして、敵対者と罵声を浴びせる兵士たちとの間で憔悴している
「皆のもの、異形の者どもに絶望を与えるのだぁ!」
国王の激に答え、前進を開始する兵士たち、そして、子供や老人たちは兵士の獲物に煽られながら前進を始める。
迫りくる軍団を前に、ラインが一歩前に踏み出し、両手を構える。
すると、前衛で押し出されて来ている子供や老人たちが光の繭に包まれ霧散する。
「この人でなしっ!」
「まぁ、人間じゃ無いけどなぁっ!」
罵声を浴びせながら、二の足を踏み始める兵士たち。
「おいおい、お前たちが『人でなしっ!』と罵倒するのか?」
「とっとと、突撃しやがれっ!」
兵士たちを窘めながら、騎士たちは彼らを煽り立てて行く。
一連の動作に苛立ちを隠さない、王様と二人の王女。
「さっさと、戦闘を始めなさいっ!」
二人の王女は
慌てた兵士と騎士が雪崩をうってラインとリッケルトに突撃を始める。
「そのまま、踏み潰されろぉ~っ!」
国王は満面の笑みで、雪崩の先を眺め、二人の王女も満足げに眺めている。
いよいよ雪崩の先端が二人を捉えた刹那、盛大な血しぶきが舞い上がる。
「キャァーーー!」
シャルは顔を覆い隠してテーブルに伏せ、アリィは画面から顔を背ける。
ただグレゴールだけが、戦闘を凝視している、武人として状況を見極めるために。
「我が主を、舐めてもらっては困ります。」
ラインの声が部屋にこだまし、全員が戦闘画面に視線を戻すと、黒い大剣を利き手の肩に置き、敵の鮮血を浴びながら、満面の笑みを浮かべるリッケルト。
雪崩は停まり、狂気の悲鳴が後続部隊に広がって行く。
やがて悲鳴が国王の耳下まで響くと、歯ぎしりを始める国王と二人の王女。
「おのれぇ~!」
国王が吠え
「「何をしてるの?
さっさと潰してしまいなさいっ!」」
王女は再び魔法の詠唱に入る。
後援の状況に卒倒した兵士たちは、再びリッケルトに向かって突撃を始める。
が、彼の剣の間合いには血の雨が降り注いでいる。
徐々に瓦解を始める王国軍。
後衛から、自軍を鼓舞するかのように、
後門の虎、前門の狼…。
逃げ惑うことは許されず、前進して剣のサビになるのか、後退して消し炭になるのか、哀れな兵士・騎士たちは、ただただ魂をすり減らし、半狂乱のまま、命を刈り取られていく。
さながら、スライスされる
やがて国王と王女二人、そして供回りの衛兵と対峙する、黒い大剣を利き手の肩に置き、満面の笑みを浮かべているリッケルト。
「何故、貴様ほどの実力者が
何故、勇者を滅ぼした?」
国王が吠える横で、王女二人は
衛兵たちは斬り伏せられ、
そして、リッケルトにはかすり傷の一つもない。
「お前は何者だ?
何故、我々の前に立ちはだかる!」
「「ヤァーーッ!」」
再び吠える国王と、彼を残しロッドで以ってリッケルトに殴りかかる二人の王女。
否、国王も娘たちの後に続き、バスタードソードで斬りつける。
「ヒューーッ!」
一声吐き、黒い大剣を真っ直ぐに突き出すリッケルト。
剣の切っ先に刺し貫かれる二人の王女と国王、刹那の時間を置いて、黒い大剣に埋め込まれた赤いルビーが激しく輝きだす。
「「「グッッギャァァーーーッッ!!」」」
三人は断末魔を残し、黒い霧となって霧散する。
そして、一部始終を見届けてしまったシャル、アリィ、グレゴールは、無言のまま佇むしかなかった。
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