第3章 生き人形(傀儡)

第40話 黒い賢者

 森を一望できる高木に佇む、一人のダークエルフ。

 後ろ手に髪を束ね、精悍で彫りの深い男である。


 すると彼の眼前の遥か向こう、木々の合間で爆発が有り土煙があがる。

 彼が目を凝らすと土煙の足元では、小規模な爆発が続いていた。


 位置を確認し、木を降りるダークエルフ。

 木の麓には、村落が広がり、ダークエルフたちが生活を営んでいる。


 木から降り立った彼に、子連れの女性エルフが話しかける。

「どうしたの?ジョー。」

「結界が破壊された。

 偵察に出るので、長老に連絡して、村の守りを固めてくれ。」


 現場に向かって走り出すジョー。

 子連れのエルフも慌てて村長宅に向かていく。

 ジョーは走りながら、数十メートル毎にウッドゴーレムを生成していった。

 日が暮れる頃には、目的の近くまで来たジョー。


 樹上から破壊された結界を見るジョー。

 結界から数メートル入った所で人種の冒険者十数パーティーが野営している事が確認できる。


 そのまま一晩監視をするジョー。

 空が白み始める頃、パーティーが幾つかのグループに別れ森に侵入して来る。

 彼らの姿が森の奥に消えた所で、野営跡を調べるジョー。

 一通りの調査を終え、村落へ向かって移動を始めるジョー。

 ジョーの姿も消えると、灰色フードを被った一人の少年が野営跡にやって来る。


 村落へ戻る途中、幾つかの冒険者パーティーを見かけるジョー。

 どのパーティーも攻守のバランスが整っており、見える装備を加味すれば、ドラゴン討伐を彷彿とさせるような状態である。

(ドラゴンなど存在しない筈なんだが…。)

 そう思いながら、用心のために、泥人形マッドゴーレム木人形ウッドゴーレムを設置していくジョー。


 そして、村落から半径十キロの範囲で障壁と認識阻害の結界を張っていく。

 さて、ゴーレムを設置したところでは、戦闘があり、ゴーレムたちが倒されていく。

 日が沈み、冒険者パーティーの活動も停滞するかと思えば、全く戦闘が収まる気配はない。


 何かに急き立てられるように活動を続ける冒険者パーティーの各グループ。

 森の結界を破り、疲れも知らず、ひたすら探索を続ける冒険者たちに、ある種の恐怖を感じ、斥候を決意するジョー。

 三人パーティーが他の冒険者たちと別行動を始めたところを見計らい、彼らの前に立ちはだかるジョー。

「へへへ、見つけたぜ、ダークエルフっ!

 この疫病神どもっ!」

 言うが早いか、ジョーに攻撃を始める冒険者たち。

 鬼気迫る表情で繰り出される、剣撃や攻撃魔法。

 必要最小限の回避で冒険者を気絶させようとするジョー。

 相手三人の連携の乱れを突き、なんとか勝利を収めるジョー。


 三人を縛り上げる頃、三人が意識を取り戻す…のだが。

「コロス、コロス、コロス…。」

 三人揃って同じ言葉を呪文のように唱えている。

 仕方がないので、猿轡さるぐつわを噛ませた上で、三人を村につれて戻るジョー。


 村にたどり着くと、長老の家へ向かうジョー。

「これは…禁呪の類じゃのう。

 傀儡というやつか…。」

「解呪できますか?

 でないと、彼らの意図が解らない。」

「やってみるしかない。

 …が、時間を要する。

 結界と防御の強化を頼むぞ。」

 そう言うと、解呪を始める長老。


「分かった。」

 ジョーは長老の家を飛び出すと、障壁の状況を確認に向かう。

 里の住人は自宅待機しているようで、人影はない…はずなのだが、灰色フードを被った少年が一人立っている。

「ここが、ダークエルフの隠れ里…。」

 薄笑いを浮かべると、森の方に去っていく少年。


「ここは、これで…良し。」

 ゴーレムの設置を済ませ、次の地点に移動しようとした所で、目の前に灰色フードを被った少年が立っている。

「坊主、何処から来たんだい?」

 明らかに警戒しているジョーの下に、無言で近づいてくる少年。

「私、リッケルトと申します。

 ダークエルフの戦士殿。」

「リッケルトくんは何処から来たのかい?」

「この森の遥か遠く、北に広がる荒涼とした土地から来ました。」

「この森よりも遠い、北の土地…か。

 で、君がここに来た目的は?」

「目的ですか…。

 この村の調査と言ったらどうしますか?」

「調査内容を聞いてもいいかな?」

「日常生活…とか?」

 真面目な顔して、間抜けな解答…。

 吹き出してしまう、ジョーとリッケルト。


「ところで、君はパーティーとか組まないのかい?」

「必要ありませんし、縛られるのは性に合いません。」

「しかし、戦闘の際は、いろいろと不便じゃないですか。

 戦闘補助とか後方支援とか…。」

一人芝居ワンマンアーミーですからねぇ…。

 気にする暇がないですよ。」


 会話の受け答えに、不穏な点がないことを確認出来たので、一安心するジョー。

 それを見透かしたように話をつなぐリッケルト。

「そう言えば、猟犬ぼうけんしゃが放たれたようですね、この森に。」

「ああ、傀儡の術を施された猟犬だね。」

「ということは、傀儡使いりょうしが居るということですね。

 …ふむ、そちらには興味がありますねぇ。」


 思考に更けいるリッケルト。

 その様子を見ていたジョーだったが、結界の異変に気付き、走り出す。

 その姿を見送るリッケルト。

「さて、どうしたものかなぁ?

 …なぁ、相棒。」

「彼を尾行対象マークしようか。

 あの戦闘力は捨てがたい。」

 ジョーの姿を見送りながら、呟くリッケルトとそれに答えるバリトン。

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