第41話 マリオネット

 結界の崩落した現場に訪れるジョー。

 結界が破られただけではなく、ゴーレムも破壊されている。

「この結界を破れる人間など…一体何者が…。」

傀儡使いりょうしがやったのでは?」


 ジョーが振り返るとリッケルトが後ろに佇んでいる。

 いつの間に…と言いかけた所で、近くの林から何者かの気配がする。

 そして、現れたのは人種の冒険者、想定通り傀儡と化したパーティー。


 こちらと視線が合うよりも早く、戦闘になってしまうジョーと傀儡たち。

 声をかける間もなくジョーは体術を駆使して攻撃を回避する。

 リッケルトも同様に攻撃を回避している…が、リッケルトを襲った冒険者が尽く膝をついて倒れ伏す。

(カウンターマジック…か?)

「体術ですよっ!」

 ジョーの思考を見透かすように答えるリッケルト。


 程なくして、ジョーとリッケルトの手にかかり倒される冒険者。

「これが、傀儡と化した猟犬ぼうけんしゃですか。」

「そうです。」

 リッケルトの質問に答えるジョー。

 冒険者を縛り上げ、様子を見ているリッケルト。

 彼らの身ぐるみを剥ぎ、鎧の裏、武器の持ち手、イヤリングや指輪、ネックレス、腕輪と丹念に調べるリッケルト。

 そして、冒険者たちの後頭部と首の付根に魔法陣のようなものを見つけ、その魔法陣にそっと手の平をかざす。


「どうです、相棒。」

「ふむ、ヤツラが憑依するための魔法陣じゃのう。

 …残念じゃが、彼らの心は喰われてしまっておる。」

「ということは…。」

「傀儡とは、言い得て妙なリじゃ。」

「そうか…。」

 手の平の影から黒い刀身が現れ、冒険者たちの体を刺し貫いていく。

「ぐぎゃぁ~~~っ!!」

 断末魔の悲鳴を上げ、黒い霧とミイラに成り果てる冒険者たち。

 その様変わりする姿に声を失っているジョー。

「これは…一体…。」

 ようやく落ち着いたジョー。

「傀儡の正体ですよ、ジョー。

 彼らは肉体は生きながら、魂は魔物に喰われてしまった、生人形リビングドールですよ。」

 リッケルトの言葉に青ざめだすジョー。

「チョット待ってくれ、ということは、彼らはもはや人間ではない…と?」

「ええ、ゴブリンやオークと言った類の魔物と変わり有りません。」


 リッケルトの言葉を聞いて、里に駆け戻るジョー。

「気付いてくれましたかね。」

「ああ…。

 じゃが、手遅れやもしれぬのぉ。」


 ジョーの眼前に広がる村には、死臭と静寂が漂っている。

 深呼吸して一軒ずつ確認して回るジョーだったが、四軒目を確認した所で、嘔吐が止まらず、四つん這いになって吐き戻している。

 戸口には、小さな子供の手首が転がっている…。


「惨殺した上に、食人とは…ゴブリン並みとは…。

 然り。」

 ようやく立ち上がったジョーの顔は青ざめていた。


「しかし、ここまで凄惨なものなのか??」

 吠えるジョー。

 その叫びは虚しく森に吸い込まれていく。

 住居を一箇所ずつ燃やしていくジョー。

 すべての建物に火をかけ終わる頃、リッケルトが村に到着する。

「すまない、今は一人にしてくれないか。」

 リッケルトは頷くと、村の外れに移動し、地べたに座り込む。


 火葬を一通り済ませ、リッケルトの下にやって来るジョー。

「待たせたかな?」

「いいえ、ご苦労さまでした。」

 リッケルトはお尻を叩きながら、ゆっくりと立ち上がる。

「改めて、お悔やみ申し上げます。」

「恐れ入ります。」

 お互いにお辞儀を済ませ、顔が引き締まる。

「では、行きましょうか、ジョー。」

「ああ、狩猟の開幕だっ!!」

 弓矢を携えるジョー。

 その後ろに続くは手ぶらの少年、リッケルト。

 結界の破られた反応があった所に向かい走り出す。

 行く先には煙が立ち上っている。

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